「遅くにすまない、少し話したいことがあるんだが……若?寝てるのか?」 テーブルの上に何かが置かれた音。 静かな足音とともに近づく声。 空気の振動から伝わるアルバの一挙手一投足に心臓がバクバクと跳ねる。 何の反応もできないうちに扉が開く音がしてとっさに寝たふりをしてしまったが、それは正解だったのだろうか。 話したいこととはなんだ。 アルバは何を話しにきたんだ。 怖い。 話したくない。 早く出て行ってくれ。 風邪をひくぞと幾度か声をかけてくるのをひたすら瞼を閉じたまま無視していると、アルバが溜息をついたのが耳に入った。 本来はほんの小さな音なのだろうが静かな部屋ではとても大げさなものに聞こえる。 呆れたのか、それか面倒だと感じたのかもしれない。 どちらにせよいい感情から出たものではないであろうそれに意図せず肩が跳ねた。 起きていると悟られたくないのに若と呼ぶアルバの訝しげな声が容赦なく胸に突き立てられるたび身体が強張っていく。 悲しい、苦しい、痛い。 すぐにでも耳を塞いでやめろ、黙れと喚き散らしたかった。 それをしないのは目を開いたが最後、より悪い事態になるに違いないからだ。 ここにいるのはおれを抱いて温め寒さを忘れさせてくれるアルバじゃない。 突き放されて暗く冷たい場所へ置き去りにされるのがわかっていて縋りつくことなどできるはずがなかった。 「起きているならせめてベッドに移動しよう。体調が悪いんだろう」 「……ん、ぅ」 誤魔化すためにむずがるような声を出して身じろぎすると、ようやくおれを起こすのを諦めたのかアルバがソファから離れる気配がした。 ややあってベッドから布団を退ける音が聞こえ、再度足音がこちらに向かって来て、そして。 「…………ドフィ、おれのドフィ」 久々の、甘い熱の籠った声。 喉の奥からひゅ、と息が漏れた。 |