会えば声をかけられる。 声をかけられればまた、以前との差を思い知らされて辛くなる。 それがわかっているから今のアルバには会いたくなかった。 会いたいけれど会えない。 おれのアルバがいないから、会えない。 モーニングコールを拒否したときにはすぐに元通りになると思っていたのだ。 次におれを起こしにくるアルバはきっと前みたいに優しく微笑んで抱き寄せてキスしてくれると、そう思っていた。 ベビー5からの報告は本来であれば喜ばしいものなのだろう。 しかし今の状況ではアルバが浮気をしていないという事実はおれに絶望しか運ばない。 酷く取り乱したおれにベビー5は何度も詳細を語った。 浮気の可能性はゼロ。 アルバが所有を宣言するような相手はどこを探しても存在しない。 だったらなぜアルバはおれから離れていったのか。 思いつく理由なんて一つしかなかった。 誰かのことを好きになったんじゃなく、ただ純粋におれへの愛情が失われただけ。 おれは。 アルバは、もう。 月明かりすらない真っ暗な部屋をずるずると足を引きずるように歩いてソファに近づきサングラスをテーブルに放り投げそのまま横になる。 激情のままに壊してしまった部屋の中で唯一無事だった大きなソファ。 これに座ってアルバとよく話をした。 昔のことだったり今のことだったり未来のことだったり、色々と。 いくら大きいといったって本来寝転ぶためのものでないソファからは足が半分以上飛び出してしまっているがアルバのぬくもりがない真新しいベッドよりは余程心地がいい。 息を潜め、耳に張り付くよそよそしい呼び名をひたすら記憶の中の親しげなそれで無理やり塗りつぶしていく。 意味のない逃げだ。 けれど、もう無理だった。 どこを見てもアルバがいない。 おれを「おれのドフィ」と呼んで、温かい腕で包んでくれるおれの、おれだけのアルバを取り戻す方法が見つからない。 夜の冷たい空気で段々と冷えていく体温にこのまま眠って風邪でもひけばアルバも少しくらい関心をもってくれるだろうかと考えて思わず渇いた笑いが漏れた。 一カ月より以前であれば、こんなふうに肌寒い日にはおれが寒さを感じる前にアルバが部屋を訪ねてきたからだ。 可愛いおれのドフィ、寒くないか、一緒に寝るかと問いかけながらおれの答えを聞く間もなく布団に連れ込んで服を脱がせてきたアルバは、絶対におれへの心配と自分の欲をごちゃ混ぜにして動いていたに違いない。 「……それが、普通だったのになァ」 アルバ、おれのアルバ。 心の中で呼びかけてみても望む返事は返ってこない。 その代りとでも言うのだろうか。 「若、入るぞ」 控えめなノックの音に続く脳内で再生されるものより一層リアルで逃れようのない声がおれのぼろぼろの胸を突き刺した。 |