うそだ。 小さく動いた唇から零れ出た声は自分の耳にすら届くことなく消えていった。 自室の窓際から庭を去るアルバの姿を呆然と見下ろす。 見聞色の覇気で拾い上げたアルバの言葉。 それがどうしても理解できない。 だって、アルバはおれの恋人だ。 好きだと、付き合ってくれと言ってきたのはアルバのほうで、そのアルバが「恋人にしてくれるのなら喜んでドフィのものになる」と誓ったのだから恋人の、はず。 それなのになんでそんなことを言うんだ。 おかしいだろう、アルバ。 「……おれ、以外に」 シンとした部屋の中に力なく掠れた声が響く。 おれ以外に、誰か『おれの』と言う相手ができたのか。 そう口にすると、ただの可能性にすぎなかったそれがあたかも真実であるかのように頭の中に根を張った。 アルバが「若」と呼ぶことをすんなりと受け入れたときから危惧していたこと。 いつまでも所有されているということを認めないおれよりアルバの言葉にはにかんでみせるような素直で愛しやすい相手を選んだから。 だからおれのことを「おれのドフィ」と呼ばなくなったし、愛称に執着しなくなったのでは、と。 頭が痛い。 全身の血が抜き取られたように体が冷たくて吐き気がする。 しかし同時に光明も見えた。 アルバのものになったその相手さえ見つけ出しオモチャにして始末すれば、記憶を失ったアルバはおれのもとに戻ってくるだろう。 「ふ……フフッ、フフフフフ!!」 歪な笑みが口元に浮かび、笑い声をあげる度に身体が揺れる。 離れるなんて許さない。 アルバはおれの、おれだけのものだ。 |