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意地を張るなら知らぬ顔を通しておけばよかったのだ。
それを最後の最後で耐えきれずに見てしまうからいけない。
ジャブラの視線の先には女に寄り添うアルバ、その腕に絡む、細い指。

「あ、」

呆けたような声のあまりの弱々しさに、カクはやれやれと帽子のつばをさげた。
最近になってアルバが変わったというのは周知の事実である。
なにせ自他共に認めるジャブラ馬鹿が、司法の島から逃走する際ジャブラがカクを背負うことにもカリファに服を貸し与えることにも何一つ口を出さなかったのだ。
気付かない方がおかしいだろう。
劇的ともいえる変わりようではあったものの、それに関してカクは驚きもしなければ疑問に思うこともなかった。
なぜならアルバが変わったきっかけについて、なんとなくではあるが心当たりがあったから。
アルバの変化はカクにとって想定内の出来事だった。
しかしエニエス・ロビーが壊滅し、アルバがジャブラと距離を置いて、セントポプラに辿りついてもアルバはジャブラに触れようともせず。
変わったまま変わらなくなってしまったアルバに対するジャブラの言動には、カクは元々丸い目を更に丸くした上で思いっきり呆れた。
いつも鬱陶しい視界に入るなと追い払っていたのを知っているだけに、ジャブラは自分に構ってこなくなったアルバを清々したとかなんとか言いながら喜んで受け入れるものとばかり思っていたのだ。
それがまるでお気に入りの玩具を奪われた子供みたく苛立ち焦り泣きだしそうな顔までみせるというのだから本当にどうしようもない。

「おいジャブラ、わしらはカリファとクマドリを待っとるんじゃぞ。アルバに単独行動させてもいいんか?」
「え、あ、おう。そりゃ、ダメに」
「別に構わんだろう。買い出しといったって荷物が大量にあるわけでもなし」
「チャパパパ、放っておいたほうが面白いぞーー」

ダメに決まってる、とアルバを引きとめる理由を得て生気を取り戻したジャブラが立ち上がる前にブルーノとフクロウがカクの助け船を叩き潰した。
こいつら、わかっててやっとるな。

「カク、人の恋路は黙って見ておくものだ」
「チャパパパパパパ!!」

女と連れだっていったアルバへと見せかけつつ、明らかにジャブラを揶揄しているブルーノの言葉にフクロウが爆笑する。
仕方がないことだろう。
カクだって『ジャブラに背負われて移動した』という借りさえなければ助け船を出すことも、それ以前に二人の様子を気にすることさえなかったはずだ。
この状況だってちょっとした娯楽として扱ったに違いない。
とはいえ借りがある以上は早々に返しておかなければ後々になって何を言われるかわかったものではないし。

「……面倒じゃのう」

中途半端に腰を浮かせた状態で固まっているジャブラを横目に、カクは熱いコーヒーをゆっくりと啜った。