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夜と朝の境の時間、まだ日が昇る前の暗い部屋で目を覚ましたおれは自分が体に巻き付けている明らかに一人分ではない量の布団にまたやってしまったのかと頭を掻いた。
隣を見ると案の定なにも被っていないうえ寝巻を肌蹴て腹丸出しで眠っているサカズキの姿。
夏から秋にかけてのこの時期、寒がりなおれと暑がりなサカズキが一緒に眠るとサカズキが蹴り飛ばした布団をおれが奪って大抵こんな状態になってしまうのだ。
サカズキは問題ないと言うものの明け方の冷え込みに布団なしはさすがに辛いだろう。
せめて腹だけでも温めるべきだと布団をかけようとして、ふとサカズキの無防備すぎる寝相にイタズラ心が湧いた。
呼吸に合わせて穏やかに上下する腹にそっと手を乗せる。
ぼこぼこと浮き出ている腹筋をゆっくり撫でてみてもまったく起きる気配はない。
むしろ外気で冷えた肌に触れる手のぬくもりが心地いいのか、さっきより表情が穏やかになっているくらいだ。
なんという警戒心のなさ。
おれのこと信頼してくれてるからなんだろうけど、これでいいのか赤犬大将。
ああ、そういや犬って信頼してる相手には腹見せるんだっけ?
服従のポーズ的な……あ、なんだろうなんかちょっとムラッときたかも。
寝起きで理性が働いていないからしかたないと言い訳しつつ、ぐっと身体を屈めてサカズキの腹に唇を落とす。
筋肉のでこぼこをなぞるように舌を這わせ臍をくじると擽ったいのか規則正しかった呼吸が震えるように乱れた。
情事の最中と似て非なる反応は、いやらしいというよりも純粋に可愛らしい。
普段あんまりいちゃいちゃさせてくれないだけにこういうサカズキはとても新鮮だ。

「ッん……アルバ?……なにしちょる」

調子に乗って腹に前歯を当ててみたり際どいところに吸いついたりしていると、ついにサカズキの瞼がピクリと動き、ぼんやりとした瞳がおれを捉えた。
まだ夢の世界に片足を突っ込んだままなのだろう。
いつも張りのある声が少し掠れてふわふわとしている。

「サカズキが寒そうだったから暖めようと思って」
「……ほーか」

寝惚け眼でおれの言葉を何の疑いもなく飲み込んだサカズキが気だるげに腕を持ち上げおれの頭を抱え込んだ。
何度か髪の感触を楽しむように手を滑らせた後、静かに息を吐いてそのまま動きが止まる。
どうやら睡魔の誘いに乗るつもりらしい。

「おい、サカズキ」
「……まだ夜じゃけェ、」
「寝るのか?」
「…………ん」

それだけ言うとサカズキはおれの頭を腹に乗せたまま再度すやすやと眠りはじめた。
サカズキに引っ付いてればおれは寒くないし、サカズキもおれが乗っかっていれば腹を冷やさないですむ。

「うーん……まァ、いいか」

ある意味合理的ではあると納得して頭を腹に固定されたまま眠りについたおれは、数時間後、朝日とともに覚醒し腹回りのキスマークを視認したサカズキの怒声を目覚ましがわりに爽やかな一日を開始したのだった。