×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

任務地である冬島に近づいた軍艦の甲板。
その片隅に無造作に寝転んで押しつぶされそうなほどの星の瞬きをぼんやりと眺める。
細く息を吐くと冷たい外気に晒されて白くなったそれは煙のように立ち昇って消えた。
自分は煙草の類はやらないけれど、あの人が煙を燻らせるときの視界はこんな感じなのかもしれない。
何気無い行動にふとメンソール味のシガレットを好んで吸う上司の姿が脳裏をよぎり、クザンはまたやってしまったと首を振った。
近頃何をどうしていても思考が最後に行き着くのはあの上司、アルバに関することだ。
惚れた腫れたは今更どうしようもないが、それにしたって女々しすぎて自分自身に嫌気がさす。
この場に自分しかいないという気を紛らわせない状況が羞恥心に拍車をかけ、白い息が目に入らないよう瞼を閉じてじっとしていると船内に続く扉が開き何者かがこちらへ近づいてくる気配がした。
何者か、なんて言葉を濁すのも馬鹿馬鹿しい。
カツリカツリと伸びやかに響く足音とほんの僅かなミントの香り。
それだけで相手を断定できてしまうおれは一回死んだほうがいいと考えながらクザンは上体を起こした。

「ようクザン、今夜は冷えるな」
「……何しに来たんですか、アルバさん」

どこか皮肉っぽい笑みを浮かべながらクザンの傍で立ち止まったアルバに渋い顔でそう返す。
可愛げのない刺々しいセリフにもアルバは肩を竦めるだけだ。
いつもと同じ。
アルバはクザンが何をしたって、何を言ったって気にも留めない。
相手にされないとわかっていてわざと突っかかるような態度をとってしまうのが嫌で、かといって素直に好意を示すこともできないクザンは最近ではずっとアルバを避けるようになっていた。
だから今回同じ船で任務に向かうのが決まったときには、色々と悩んだのだ。
避けていた理由を聞かれたらどう答えるかとか、嫌われてしまっていたらどうしようだとか、色々。
けれど悩んでいたことが馬鹿馬鹿しくなるくらいアルバの態度はいつも通りだった。
結局、クザンに避けられることすらアルバの中ではなんでもないことだったのだろう。
そんなふうに考えて胸に穴が空いたような虚しさを覚えていると突然顔に何かが被さり目の前が真っ暗になった。

「ちょっ、と!アルバさん何すんのいきなり!」
「氷結人間ったって寒くねェわけじゃないんだろ?」

まだここにいるなら着とけ、というアルバの言葉にまじまじと剥ぎ取ったものを見る。
生地の感じからして新品であるらしい厚手のコート。
薄着の自分を心配してわざわざ持ってきてくれたのか。

「……いりませんよ。寒さには強いんで」
「そう言うな。ほら、こんなに冷たくなって」

コロリと喜んでしまいそうになる安っぽい自分を叱咤し突き返そうとした手をアルバに捕らえられギョッとした。
火傷するのではないかと思うほどに熱く感じるその手を振り払いもせずただただ硬直するクザンに、アルバが再度コートを押し付ける。

「お前が尽く避けてくれるせいで渡すのが遅れちまったが、プレゼントだ。今日くらい素直に嬉しがっとけ」

誕生日おめでとう、クザン。
祝いの言葉を口にしたアルバが咥えていた煙草を捨て、流れるようにクザンの唇を奪った。
目と鼻の先でニヤニヤ笑うアルバに暫し呆然とし、次いで真っ赤になった額を水が伝う。
汗ではない。
能力で凍った皮膚がクザン自身の熱で溶けているのだ。

バレている。
今までの態度が強がりだということや、おそらくはアルバに抱く気持ちまですべて。

「どうした?風邪でも引いたか?ん?」
「や、ちが、アルバっ、アルバさん!」
「ははは、見事に真っ赤だなァ」

突然のキスと自分の異常な状態に混乱するクザンに追い打ちをかけるようにアルバがその身に着けていたマフラーを首にまいてきた。
今までにない至近距離から感じる少し甘い煙草の匂いと、まだ失われていないアルバの温もりに声にならない叫びが喉を突く。
それからしばらくの間、キラキラと輝く星空の下には溶けて消えてなくなってしまうというクザンの悲痛な訴えと、そんなクザンを腕に抱き込んだアルバの楽しげな笑い声が響いていた。