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「おれさァ、ルッチが人獣型で帽子かぶってるときの耳ほんっと好きなんだわ。あのふわふわした耳がさァ、帽子のつばに当たってぺこって折れてんの。ちょーかわいい。レオパルドって全身の体毛は短いじゃん?なのに耳だけは毛が密集してて、ふわっふわで、かわいー、目とかすっげー睨んでんのに、耳折れてて、ふわふわ、で、さァ。ルッチはかわいいなァ。本当にかわいい」

脳みそのなかで繰り返し再生される、おれ史上他に例を見ない空前絶後の大失態。
酒癖は悪いが記憶は残るほうだ。
だから昨夜ルッチと二人で酒を飲んだ際、酔っ払って寝るまでの間レオパルド状態のルッチの耳が如何に愛らしいかを延々語りまくっていたこともしっかり覚えている。
そんなおれが今朝起きて一番にしたのは自分の鼓動を確認することだった。
心臓が動いていることに心底ホッとしたのは言うまでもない。
よく殺されなかったな、おれ。
というかよく殺さなかったな、ルッチ。
おれがルッチの立場であんな迷惑な絡まれ方したらわりと序盤でブチギレる自信あるぞ。
いや、もしかして意識が混濁した奴を殺しても意味がないとかそういう理由で生かされてるんじゃ、と慄いているうちに起きて以来ずっと続いていた水音が止んだ。
ルッチくんのシャワータイム終了のお知らせです。
どうしよう、めちゃくちゃ顔合わせづらい。
濡れた床を歩く音ののち衣擦れの音、次いで乾いた靴の音。
心の準備ができないうちに長い髪から滴る水をタオルで拭きながら登場したルッチは、わかっちゃいたけど男前だ。
眼光鋭い精悍な顔つき、鍛え上げられた体躯、愛想のない冷めた態度。
どこをとっても可愛さとは無縁の男、ロブ・ルッチ。
これを相手に可愛い可愛い連呼してたなんて、酔っていたとはいえ頭がイカレてるとしか思えない。
いくら豹耳が愛らしいからってイコールでルッチかわいいにはならないんだよバカヤロウめ。

「起きたか」
「……おう」

ルッチにおれの心情を察してフォローを入れてくれるような優しさがあるはずもなく、予想通り一瞬で途切れた会話に頭を抱えたくなった。
二人の間に横たわる沈黙がクソ重い。
もし相手がジャブラだったら酔ってやらかしても「昨日のお前の酔い方傑作だったぜギャハハハハ!」と指差して笑われて終わりなのに。
あれはあれでむかつくけどこの状況よりは余程マシだ。

「……なんつーか、昨日は悪かった」

憶えていないととぼけることができればよかったのだが何度も一緒に酒を飲んでいる以上おれが酒で記憶を失うことがないのはルッチもしっかり知っている。
ならばもう下手な言い訳などせず素直に謝ってしまえ。
そう腹を括って頭を下げるも、なかなかルッチから反応が返ってこない。
やはり怒っているのかと恐る恐る顔を上げるとルッチは相変わらず何を考えているか読ませない鉄面皮のままおれをじっと見ていた。

「ルッチ?」
「……人獣型のときやけに視線があわねェのは不快だったが」
「お、おう」

よく豹耳に目がいってるって自覚はあったがそこまで露骨だったのかおれ。
我ながらひくわ……。
これからは意識して見ないようにしようと心に誓っていると、突然ルッチが指で眉間を突いてきた。
指銃には程遠い威力だがそれなりに痛い。
多分一般人なら今の一撃で死んでたなってくらいには痛い。
額を押さえてうずくまり声もなく悶えるおれをルッチが鼻で笑うのが聞こえた。

「仕方ねェ、許してやる」

頭上から振ってきた信じがたい言葉に手の隙間から視線を向けると、そこには何やら満足げな笑みを浮かべたルッチの姿。
「かわいい」と思ってしまったのを体に残った酒のせいにして、おれは膝に顔を埋めた。