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「#幼馴染」のBL小説を読む
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「えっ、アルバお前、初恋もまだなのか!?」

宴の最中、耳に届いた素っ頓狂な声に今まさに酒を呷ろうとしていたニューゲートの手がギシリと動きを止めた。
周りを囲む息子たちがその動揺に気づかなかったのは偏にニューゲートと同じく『アルバの初恋』という話題に気を取られ、不自然に固まった巨躯から目を逸らしていたゆえだろう。
アルバは家族の中でもかなりの古株でありながら温和で人懐っこい気質のために上からも下からも可愛がられることが多い男だ。
放っておけない男の放っておけない話題となれば集まる視線も当然多くなる。

「性欲の薄い奴だとは思ってたけど、まさか一度も惚れた腫れたを経験していないとはなァ」

息子が足元でぽつりと呟いた言葉になんとも形容し難い気分になって、表情を悟られないよう勢いよく盃を傾けると度数の高い酒がカッと喉を焼いた。
アルバは兄弟からいくら色街へ誘われても決して首を縦に振ろうとしない。
だがそれは別に性欲が薄いからというわけではないことを知っているのは、この船で唯一ニューゲートだけだ。
「オヤジ以上に大切に思える相手が見つからなくて」という言い訳も「美人じゃなくてもいいけどおっぱいは大きいほうがいい」というあけすけな好みも、アルバは昔から何一つとして変わっていない。
「おれ、オヤジのこと好きみたいなんだ」
そう照れくさそうな顔で打ち明けてきた若造をまだ髪の長かったニューゲートが家族愛を勘違いしているだけだろうと言って否定したときと、何一つ。

初めて告白されてから暫くの間、オヤジとキスしたいと思っただのオヤジの夢で勃っただのと下世話な報告をしにきては最後に必ず「それでもやっぱりこれは家族愛を勘違いしてるだけなのか」と問うアルバに、ニューゲートは「当たり前だアホンダラァ」と恋情の否定を繰り返した。
一年が過ぎた頃にはその余りある情動が家族愛だなんて嘘でも思えなくなっていなかったが、だからこそアルバの倍も生きているような年嵩の男が応えるべきではないと拒否し続けた。
アルバは素直な男だ。
不満そうにしながらもニューゲートがそう言うならそうなのだろうと自分の恋愛感情を『特別な家族愛』に位置付けた。
そしてアルバは今もまだその『特別な家族愛』を胸に抱いたまま、自分は『恋』をしたことがないのだと思い込んでいるらしい。
自分のような老耄に傾倒して似合いの人間と添う選択肢を投げ打つなど酷い話だと考えながら、しかしどこかほっとしてしまっているのはニューゲートが老いて、長く短い命に果てが見え始めたせいだろう。
応えるつもりもないくせに手放すのが惜しくなってしまったなど。
自分の命が終えるその時までどうか『恋』を知らぬままでいてほしいなど。
本当に最低な、酷い話だ。