おれとクザンは親友だ。 そしておれは親友であるクザンに、もう数えるのも馬鹿らしくなるほど長い間報われない恋をしている。 そんなつもりじゃなかったのにいつのまにか、もしくは何かしらのはずみに親友を好きになってしまったというなら不可抗力だし仕方ないと思う。 けれど最初から下心満載でお近づきになりにいった結果近づき過ぎて身動きが取れなくなったおれは世界規模の馬鹿に違いない。 なりたくてなったわけではないとはいえ男同士なんて最初から負けが決まっている勝負に親友という贅沢なポジションを賭ける気にはなれなくて、いつまでたっても消える気配のない想いを誤魔化す術だけが上達していく。 おれの気持ちも知らず目の前で女を口説いては「あらら、ふられちまった」なんておどけてみせるクザンに「馬鹿だなァ」と笑うのにも慣れてしまった。 クザンを振った見る目のない女に「僕なら退屈させませんよ、レディ」とウインクをかまして「酷ェやつ」と拗ねたように詰られるのももうお馴染みで、どっちが酷いんだか、という情けない言葉はいつだって胸の奥だ。 一度くらい詰り返してやりたいところだが、このぶんだと一生かかってもクザンがおれの本心を知ることはないだろう。 「なにアルバ、ぼーっとしちゃって。考え事?」 小首を傾げながらこちらを見つめて魚のフライをつつくクザンに「晩飯は何にしようかと思って」と適当に返すと案の定「昼飯食いながら晩飯のこと考えるのよしなさいや」と呆れたように溜め息をつかれた。 人前で考え込むなんて失礼だなんだとぶつくさ言いながら「考えるのが面倒ならカレーとか鍋とか簡単に済ませられるのでいいんじゃねェの」とメニューを提案してくれるクザンは案外世話焼きな男だ。 諦めなくちゃならないのにそういうところも好きだなァ、なんて些細なことに胸をときめかせてしまう俺はやっぱり世界規模の馬鹿に違いなかった。 「カレーかァ……家にたまご置いてあったかな」 「そういやアルバってカレーに生卵入れるよね。おれはあれ、白身がじゅるじゅるして気持ち悪いから苦手なんだけど」 本当に嫌そうに眉を顰めて首を振るクザンにまあ好き嫌いは分かれる食べ方だろうな、と納得しつつ「きみが好きなんだ」とやる気のない主張を口にする。 と、「はっ?」と声をあげたクザンが信じられないものを見るような目でおれを凝視した。 聞こえなかったのかと思い同じセリフを繰り返すとカァッと染まるクザンの顔。 なんでと困惑した直後ある仮説が頭をよぎる。 これは、まさか。 「……黄身を混ぜると辛さがマイルドになるから好きなんだが、そんなにおかしいか?」 「えっ」 えっ、あっ、えっ?と何度か繰り返してようやく意味を理解したらしいクザンに「おれが『お前』に『きみ』なんて気取った言い方するわけないだろ」と何気なくかまをかけると一層赤みの増した顔で「アルバがいつも女口説くときに気障ったらしい喋り方するから誤解したんでしょうが!」と期待通りの答えを寄越されて泣きそうになってしまった。 おれに告白されたという勘違いで顔を赤らめたということは、可能性はゼロじゃない。 そう思っていいんだよな? なあ、親友。 |