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「げっ」
「……何をしちょるんじゃァ、おどれは」

ここ最近茶請けの定番となった紅葉型の饅頭を放り込んで一噛みし、思わず声をあげる。
と、そのまま口を開いて固まったおれをサカズキが不審なものを見るようにじろりとこちらを睨んできた。
いや、本人に睨んでいるつもりはないのだろう。
なにせ元来の強面を考慮すれば今のサカズキの表情は普段とは比べ物にならないほどに柔らかいのだから。
普通に見ているだけで睨んでいるように見えるなんて、本当に難儀な男である。

「あー……この饅頭、こしあんとつぶあんで半々買ってきたはずなんだがその中にチーズが紛れてたみたいで……おれ、チーズ苦手なんだよなァ」

ひょいと手を伸ばしてサカズキの眉間の皺をぐりぐりほぐしてやりつつ閉じられない口のおかげで若干怪しい呂律を堪えてそう説明すると「酒のつまみでよう食うちょるじゃろうが」と呆れまじりの指摘が飛んできた。
それは確かにその通りだが、つまみになるようなしょっぱいチーズと菓子に使われる甘いチーズはおれの中で完全に別物なのだから仕方がないではないか。
もったいない気はするけれど嫌いなものは嫌いだ。
さっさと吐きだして茶で口直ししよう。
そう考えてちり紙を取るために眉間から離れたおれの腕をサカズキの大きな手がガシリと掴み、え、と思う間もなく唇にかぶりつかれた。
躊躇うそぶりもなく口内に侵入してきた舌が器用に砕かれた饅頭を攫っていき、そして離れる。

「……これはこれで悪かァない」

呆気にとられてぽかんとしているおれの前で数度咀嚼して悪びれることもなく感想を告げるサカズキ。
食べカスでもついていたのか、再度顔を近づけてきたサカズキにぺろりと唇を舐められてようやく我に返ったおれはため息とともに脱力した。
相変わらず恋仲でもないというのに、最近のサカズキは手ずから食べるだけでなく平気でこういうことをしてくるから困る。
おれは別に嫌ではないしむしろ役得だとすら思っているが、これだから周囲から餌付けだ何だと言われてしまうのだ。
本人が気にしていないとはいえ、大将にもなった身でこうして餌付けられているなんてちょっとどうかと思わなくもない。

「、む」
「ん?どうしたサカズキ」

やれやれと首を振り今度はしっかりと中身が餡子であることを確認して新しい饅頭の包みを開けようとすると、なにやら困惑したような小さな声が耳に届いて顔をあげる。
すると視線の先では既に次の饅頭へ手を伸ばしていたサカズキが先程のおれと同じように口を半開きにしたまま固まっていて、これはもしやと思うと同時、苦虫を噛み潰したような顔のサカズキから「わしゃァ、チョコレートは好かん」とこれまた先程のおれと同じように呂律の怪しい言葉が飛び出した。
どうやらチーズの他にもイレギュラーが紛れ込んでいたらしい。
大量にある饅頭のうち互いに苦手なものを引き当ててしまうなんて、なんとも運の悪いことだ。
早うせいと急かすように袖を引かれて苦笑しながら唇を重ね、口内の饅頭を受け取り、ついでにチョコレートクリームのついた歯を舌でぞろりと舐めとるとサカズキの身体が僅かに跳ねたのが分かった。

「……うん。これはこれで、悪くないと思うぞ」
「……ほうか」

ちゅ、とおまけに一つ唇を啄んでからチョコレート味の饅頭を味わうとサカズキがほんのり目を細め、それからゆっくりと顔を俯かせる。
「もう食べないのか」と問えば「いらん」と言うくせに包みを剥いて口元に近づければぱくりと食いついてくるのだから、おれはこれからもサカズキの餌付けをやめられそうにない。