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顔を合わせれば喧嘩腰であれやこれやと指摘してくる年下の恋人はおれの部屋に来るともれなくパンクしそうな勢いで怒り、腰を下ろす間も無く掃除を始める。
おれはそれを恋人に潔癖症の気があるからだと気にせずにいたのだが、どうやらそうではなかったらしい。

「片付けたくなって当然よ!だってアルバさんのお部屋、汚いんだもの」
「ええ……マジで……?」

くすくす笑う少女に恐る恐る「そこまでか」と問うと「ファミリーの中では一番だわ!」と輝くような笑顔で返されて心を打ちのめされた。
おれの部屋は確かに物が散らかっていて雑然としているものの酒以外の飲食物は持ち込んでいないし洗濯物を大量に溜めこんでいるわけでもない。
男の部屋なんてこんなもんだと思っていたから掃除をしたがるのはグラディウスが潔癖なせいだと信じて疑わなかったのに、まさかおれの部屋が子供の目で見てわかるほどの汚部屋だったとは。
というかそんな汚い部屋を毎度のように掃除させてた挙句、怒られても「おおげさだなァ」くらいにしか思ってなかったっていつ愛想つかされても文句言えないぞ、これ。

「あー……なあベビー5、前に一回断っといてなんなんだけど、これからはおれの部屋の掃除も頼んでいいか?」

グラディウス以外を部屋に入れたくなかったのだが、背に腹は代えられない。
自分で片付けようにも今の汚部屋を汚部屋と認識できない時点でおれの掃除など焼け石に水だろう。
そう考えて頭を下げたおれに「私、必要とされてる…!」とキラキラ瞳を輝かせたベビー5は、しかしすぐさま「でもそうするとグラディウスに怒られちゃうから、ごめんなさい」と首を横に振った。

「グラディウスが怒るって、どうして」
「もーっ、アルバさんにぶーい!」

恋人なんでしょ、と年端もいかぬ少女に説教されてちょっと落ち込んでしまったがベビー5の主張はなんとなくわかった。
つまりグラディウスはおれの世話をやくことに対し悪感情を抱いていない、ということか。

「……それ、お前の思い込みじゃないよな?ここで引いてそれが的外れだった場合だいぶ致命的なんだが」
「違うわよ。私、前にアルバさんのお部屋も掃除しようかって言ったときだって後で『余計なことをするな』ってすごく怖い顔で釘をさされたんだから!」
「なにそれマジで!?」
「だから掃除を頼むならグラディウスに、ね?」

普段おれに対してツンツンな恋人のデレをさらりと暴露して掃除の続きに戻っていったベビー5をおざなりに手を振りながら見送り、これまでのグラディウスの様子を脳内で反芻する。
しかし残念なことに顔を覆っている部分が多すぎていまいちよくわからない。
態度だけで考えるなら怒っているようにしか見えないのだが、本当に嫌がられていないのだろうか。
聞いたところで素直に教えてくれるとも思えないためうんうん唸って悩んでいると背後から突如「おい」と不機嫌そうな声がかけられた。
驚いて振り向くとそこには案の定眉を寄せたグラディウスの姿。
正直タイムリーすぎて動揺を隠せない。

「お、おうグラディウス。どうした?」
「それはこちらのセリフだ。こんなところで突っ立って何をしている」

訝しげに目を眇めたグラディウスになんと返すべきか答えあぐねていると、ふと降ろされた視線が鋭さを増した。
なんだろう。
また何かだらしないと指摘されるんだろうか。

「……おいアルバ、シャツのボタンがとれかけているぞ」
「え、ああ、本当だ。まあどうせ使わないボタンだし後でちぎって捨てとくよ」
「馬鹿が、みっともない格好で出歩いて若の顔に泥を塗るつもりか!?」
「す、すまん……ならベビー5に頼んでつけてもらうか」
「、な……っ!」

おれの言葉を聞いてなにやら酷くショックを受けたように目を見開きわなわなと震えはじめたグラディウスにもしかして、と思い至り「グラディウスがつけてくれたらうれしいんだけどなー」とわざとらしく呟いてシャツを脱いでみる。
と、突然カッと額を赤く染めたグラディウスは「甘ったれた野郎だ…!」と低い声をあげるが早いか、おれの手からシャツを奪い取るとそのまま走り去っていってしまった。
おれの部屋を掃除してるときと同じ、怒っているようにしか見えない態度。
けれど本当に怒っているならシャツを受け取ったりしないはずだから、そういうわけじゃないのは確実で。

「……本当に、好きで世話してくれてるのか」

ぽつりと呟いた独り言がじわじわと胸にしみる。
おれの恋人、なんでこんなに可愛いんだろう。




後日、どこかソワソワとした様子で渡されたシャツには少々歪ながら丁寧に縫い付けられたボタンがしっかりとついており、無理やり脱がせた手袋の下はなれない針仕事の苦労を物語るように絆創膏だらけになっていた。
指にキスして礼を告げると物凄い勢いで部屋から飛び出していってパンクしていたが怒って能力を発動させたわけではなさそうなので、ここは一つ、感謝の気持ちは忘れずにこれからもずっと世話を焼いてもらおうと思う。