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「#幼馴染」のBL小説を読む
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コップの水は大丈夫だが桶に溜まった水は嫌いでシャワーは浴びても浴槽に湯を張ることは絶対にない。
徹底的なまでの『顔が浸る程度に溜められた水』に対する苦手意識はおそらく囚われていた施設で受けた虐待に起因するのだろう。
矜持高く気丈なクロコダイルが水だまりに近づくだけでぎしりと尻尾を強張らせる様を見れば施設でどんな仕打ちを受けていたのかは嫌でも想像がつく。
過去は変えようがないとはいえ未だにクロコダイルの精神の一部はあの地下牢に縛り付けられたままなのだと思うととても悲しく、また腹立たしくて仕方がなかった。

「というわけで一緒に風呂に入ろう」
「……あァ?」

突拍子のない提案を聞いて眉を寄せたクロコダイルに最近眠りが浅いんだろうと指摘するとひくりと目の端が引き攣るのが見えた。
隠しているつもりだったのだろうがクロコダイルがここしばらく上手く眠れていないのは把握済みだ。
ついでに、クロコダイルのプライドを傷つけるだろうから口にはしないが夜中に目が覚めたときこっそりおれの部屋を覗きに来ていることも。

「酒を飲むより湯にしっかり浸かったほうが入眠がスムーズになるぞ」
「……おれの眠りが深くなったとして、それでてめェになんの得がある」

探るように目を眇めるクロコダイルは相変わらずおれが金のために嫌々飼われているのだと信じ込んだままで、それほどまでに傷ついた結果だと思えばそんな態度もただ愛らしいだけなのだけれど、頑固というかなんというか。
純粋な心配を疑われたことに苦笑してクロコダイルの頭に手を伸ばす。
優しく髪を梳き、ピンと立った牛耳を撫でながら「お前の世話をするのがおれの仕事だろう」と我ながら甘ったるい声を出すとぴくりとクロコダイルの身体が動いた。

「お前の嫌がることはしないが、そのくらいの世話は焼かせてくれ」

一緒に湯の中に入って危なくないように支えるから。
そう努めて優しい声をかけながらもう片方の手も使い、短い毛の生えた両耳の付け根をさわさわと柔らかく撫でまわす。
さわ、さわ、さわり。
余程気持ちいいのだろう。
この弱点を弄りながら甘やかすように優しく説得すると、クロコダイルは案外簡単に堕ちる。
案の定渋面で黙り込んだクロコダイルの尻尾が中途半端に浮き上がってふるふると震えるのが見え、もうしばらく粘れば間違いなく許可が下りるだろうと踏んだおれは髪を洗うときにもやってやろうと考えながら微かに赤らんだ額にそっと唇を落とした。