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「……なんだそれは」

意図せず低くなった声に自分がいまどれほど不機嫌であるかを確認し、クロコダイルは機嫌が降下した原因である目の前の男――アルバの首元からその瞳へ殺気を纏った視線を映した。
黒縁のシックな眼鏡、少し癖のある髪をゆるくかけた耳には金色のイヤーカフ。
オーダーメイドで仕立てさせたスーツも歩いたときの音まで計算された革靴もどれもこれもクロコダイルが用意してやった品ばかりなのに、その首元に締まったネクタイだけは全く見覚えのないものだ。
異物。
考えるまでもなく頭に浮かんだ言葉にクロコダイルの眉間の皺が深さを増す。

「ええと、おかしかったですかね…?」

店で見かけてこれならクロコダイルさんの趣味に合うと思ったんですけど、と頭を掻くアルバがへにゃりと眉を下げた瞬間かろうじて身にまとっていた洗練された雰囲気が野暮ったく情けないものに変化した。
出会ったころの、否、アルバという男の本質そのものである田舎者特有の芋臭い空気だ。
おどおどと泳ぐクロコダイルと同色の瞳に見切りをつけ、再度ネクタイに視線を戻す。
いいというわけではないが特別悪いわけでもなく、奇抜でなければ無難でもない。
クロコダイルが買い与えた品を日々身に着けていたことにより同じ空気を吸うことすら厭わしくなるほど酷いありさまだった当時から比べれば多少のセンスは身に着けたということだろう。
それだけだ。
良くも悪くもない、それなりに服に合ったそれがクロコダイルの機嫌を損ねる異物であることに変わりはない。

「寄越せ」
「えっ、あ!?あーあ……結構高かったのに……」

抵抗する間もなく鍵爪で引きちぎられ悪魔の力で砂と化したネクタイに抗議とも言えないしょぼくれた声をあげたアルバに「もっと上等なものをくれてやる」と鼻を鳴らして部屋を出る。
後ろをひょこひょことついてくるアルバをちらと振り返れば挿し色であったネクタイを失ったことで全体的に締まりのないぼやけた色合いになっていたが、あんな異物を紛れさせているくらいならこちらの方がずっとましだと断言出来た。
少なくともクロコダイルにとってはそれが真実だ。

「そろそろお洒落にも慣れてきたと思って頑張って挑戦してみたんですけど、クロコダイルさんの御眼鏡に適う日はまだまだ遠そうですねェ」
「クハハ……無駄な努力ほど意味のないものもねェな」

アルバがどれほど頭を悩ませて自らを飾ったところでクロコダイルが満足する日など一生来ないだろう。
だからアルバは一生、大人しくクロコダイルの選んだものだけを身に着けていればいいのである。