生き方も目的も違う同郷者との偶然の再会など物語の中でしかないと思っていたが、まさかそれが自分の身に起こるとは。 十年以上を経ても変わらない金色の鋭い瞳に笑みを浮かべながら好みの酒を飲み尽くした店を後にする。 「ミホーク、これからどうする」 宿に戻るかという問いに緩く横に振られる首。 当然と言えば当然だ。 夜はまだまだ浅い時間だしおれもミホークも昔からザルかワクかってくらいアルコールに強いので店の酒を片っ端から飲んだところでほろ酔い程度にしかならない。 ミホークさえよければ場所を変えて飲みなおすかと考えながらカラコロと飴を舐めていると、それを見ていたミホークが「懐かしいな」と呟いた。 「懐かしいって、なにが」 「その音だ。ぬしは昔からよく飴を口にしていた」 「……ああ」 なるほど、と頷き飴に軽く歯をたてる。 もともと喉を傷めやすい性質のうえミホークの前では張り切ってあれこれ喋ることが多かったおれは昔からこうして飴を鳴らしていた。 確かに懐かしい、恥ずかしくなるほど青い記憶だ。 「街中でその音が聞こえる度ぬしの姿を探したものだ」 「へェ、お前がおれを?」 どうせおれを避けるためにだろ。 口から出かけた皮肉を寸でのところで押し留めてころりと飴を転がすと、逸らした視線に何かを感じたのかミホークがおれの襟をぐいと掴み寄せておもむろに唇を重ねてきた。 咄嗟に閉じた唇を舌で抉じ開けられ驚いている隙に口内から飴が奪い去られていく。 「おま、ミホーク、なにして」 「ぬしといると心が乱される。それが嫌でぬしから離れた。故郷を出てぬしと離れてからは何にも心を動かされることはなくなったが……それと同時に世界から色が失せた」 突然のことに暫く何も言えずにいたおれの襟首からミホークがゆっくりと手を離す。 「酔って口が滑った、聞き流せ」と告げる声は淡々としていて、まるで夢でも見ていたのかと思うほどだ。 しかし黙って俯くミホークの口からは時折飴が歯に当たる音が聞こえ、先程の酒臭いキスが現実だったことをおれに知らしめる。 何を言っていいかわからない。 わかるのは、今ミホークに溶かされつつある飴がおれの持っている最後の一つだということだけ。 「……その飴、うまいか?」 「……いや、思ったよりも苦いものだな」 冷静を装った声に混じる悲しみや寂しさといった感情に、そうかと小さく頷きミホークの頬を捉えて顔を寄せた。 「なら返してもらって構わないな」 ミホークが何かいう前に、おれは酔ってないからと前置きして深く口づける。 のど飴の苦味のせいか、ミホークの舌は大層甘い味がした。 |