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「言ってなかったけどおれ、恋人がいるんだ」

アルバが数人の友人に向かってそう話しているのを聞いたペルは思わず目を見開き、そしてゆっくりと視線を地面に落とした。
別に、アルバに恋人がいるのはおかしなことではない。
アルバは才気にあふれ、それでいて人当たりのいい男なのだから好い人がいてもそれは当然のことだ。
そうなのだと、わかってはいた。
けれど本人の口から聞いてしまうと、やはり辛い。
数年来胸の奥でひっそりと育ててきた想いが嫌だいやだと暴れだすのを押さえつけるように強く胸元の布を掴み、唇を噛みしめる。
そうして必死に我慢しているのに、足が縫い付けられたように動かないペルの耳に「相手は男だから彼女じゃないよ」という笑い交じりのアルバの声が聞こえてきて、喉の奥がひくりと引き攣った。
相手が女性なら自分を慰める言い訳はいくらでもあった。
それなのに、よりにもよって男だなんて。

――ああ、駄目だ。

目の奥が熱くなる。
考えてはいけないと思っても、自分の中の聞き分けのない部分が負の感情をまき散らすのを止められなくない。
なぜ自分を選んでくれなかったのか。
なぜ誰かのものになってしまったのか。
なぜ、なぜ、なぜ。
ペル自身自分の気持ちを隠して接していたのだから責める資格などないはずなのに本音はどこまでも我儘だ。
汚い。
こんな汚い感情は外に漏らしてはいけない。
そう考えて蹲ったペルに、すっと影が伸びた。
見上げた先には友人たちと話していたはずのアルバがなぜだか一人ペルを見下ろすように立っていて、喉がひぐ、と酷い具合に潰れた音を立てる。

「ペル、聞いてた?さっきの嘘、お前で本当にしたいんだけど」

アルバの言っていることの意味が分からない。
混乱で堪えきれず流れた涙が一筋頬を伝う。
お前おれのこと好きでしょう。
隠してるつもりかもしれないけどバレバレだよ。
あんな嘘で泣いちゃって、本当に可愛いなァ。
そう言って笑うアルバは今まで見たことのないような意地の悪い顔をしていて、それでも涙を拭う指の優しさにペルの心臓は意地汚いほどにばくばくと脈打ち飛び跳ねるのだった。