「ドフィ、落ち着いて聞いてくれ。おれ、子供ができたんだ」 話しがあると言って呼び出したドフィに真剣な顔で言ったのはもちろん嘘だ。 おれは男でドフィも男。 万が一奇跡的な何かが起こってそうなったとしても、ヤッてることからして子供ができるのはドフィのほうである。 だからすぐに笑って、なんなら特大サイズのマタニティドレスくらいジョークがてらよこしてくれると思っていたのにドフィは唇を引き結んだまま何も言ってくれない。 あまりの反応の無さにさすがに心配になり声をかけようとしたところでドフィはようやく唇を持ち上げてフフッと笑い声を漏らしてくれたが、しかし安心したのも束の間、笑い声に続く言葉はおれの予想とはまったく違うものだった。 「いいんじゃねェか?どこの女かは知らねェが、産ませてやれ」 えっ、と声を出す前に、畳みかけるようにして「おれとお前じゃ血の繋がったガキは作れねェしなァ」と楽しげに言い放ったドフィに血の気が引く。 ドフィは、おれが女と浮気をして、その女との間に子供ができたと思っているのか。 それをこんなに簡単に、怒りもせず許容するというのか。 それこそ嘘だろう。 おれなら、もしドフィが他の女に手を出して孕ませたりしたら、おれは、ドフィを愛しているから、おれは。 「アルバ、どうした顔色が悪いぞ?」 「……ごめん、ちょっと、部屋に戻る」 自分の付いた嘘が原因とはいえ、すぐさま浮気したと思われたということと欠片も嫉妬もされなかったことで胸に靄がかかり「嘘だよ」という簡単な言葉が出てこなくなる。 ドフィに愛されていると思っていたのは自意識過剰だったのだろうか。 もしかしたらおれが気づいていなかっただけでドフィはもうおれに飽き飽きしていて、おれが女と子供を作って離れていくなら円満に別れられるとでも思われているもかもしれない。 いやだ、そんなのは。 おれは、 おれは、ドフィと別れたくなんてないのに。 そんなことを考えて廊下を歩いているとき、再び口角を下げたドフィが青筋を立てながら電伝虫の受話器を取り震える声で「シュガーを呼べ」と話していたのを、おれは知らない。 |