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「そういえば、今日エイプリルフールかァ」

荒い息の合間にそう呟いた数秒後よりにもよってお互い遮るものが何一つない、最も嘘に適さない状態で寄越された「おれ、実は女なんだ」という戯言によりクロコダイルの眉間には当然のように深いしわが刻まれた。
アルバの言動はいつだって無意味で無価値なものばかりだが、それにしたってここまで馬鹿馬鹿しいと思ったのは初めてだ。
アルバが女であるならば今この瞬間行われている、クロコダイルを組み敷き、貪っているかのような獣じみたこの行為は一体何なのかという話しである。
馬鹿馬鹿しい、本当に馬鹿馬鹿しい。
心の底からそう思いながらクロコダイルはふと自分の右手に目をやった。
この馬鹿にとっては『エイプリルフールだからとりあえず嘘をついた』というただそれだけなのだろうが、どんなに拙かろうと嘘は嘘だ。
このまま何も言わず流してやるというのでは、クロコダイルの気が収まらない。

「女、なら、」
「え?」
「ッ……女なら、アクセサリーの一つぐらい、身につけやがれ……この阿婆擦れが」

きょとりとしたアルバが妙なところで動きを止めたせいでクロコダイルが苦手としている痺れに近い感覚がぞわぞわと背筋を駆ける。
しかし構わずざらりと指の一本を砂に変え、そしてすぐ元に戻すとシーツの上に取り残された指輪が一つコロリと転がった。
余裕のふりで息を整えながらフンと鼻で笑ってアルバに指輪を押し付ける。
クロコダイルがあんな馬鹿げた嘘に乗ってくるとは思ってもみなかったのだろう。
見事なまでの間抜け面だ。

「えっと、あの、これ貰ってもいいの?」
「ハッ……おれが、テメェの女に石の一つ渡せねェほど甲斐性無しに見えるのか?」
「いや、ええと、……あー……」

じわじわと顔を紅潮させていくアルバに溜飲が下がり、唇から勝手にクハ、と笑いが漏れた。
「これがプロポーズだとしたら、おれってクロコダイルの嫁さんになるのかなァ」なんて本当に、この馬鹿は。