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「現実は見えたかァい?」

散々渋るのを宥めすかして初めてコトに及んだ後、ぽつりとそんなことを漏らしたボルサリーノさんにきょとりと目を見開く。
ボルサリーノさんからこんなふうに『現実』という言葉を聞いたのはこれで二回目だ。
ちなみに一度目はおれがボルサリーノさんに告白したときで、性別やら年齢差やらの悩みどころを完全にスルーして全力でアタックしたおれに、ボルサリーノさんは「ちゃんと現実を見なよォ〜」と言ってため息をついていた。
あのとき実に嫌そうに顔を顰めるボルサリーノさんに怯むことなく押し切ったからこそ現在こうして二人してベッドに転がっているのだが、それがなぜ今になって話しを蒸し返されているのだろう。
愛想が尽きたから別れたいということならセックスの前に言われてるだろうし、そもそも最近はボルサリーノさんも満更じゃない感じだったはずだし、意図が全くわからない。

「ええと、素敵な恋人といちゃいちゃできて最高に幸せな現実なら見えておりますが…?」
「……馬ッ鹿だねェ〜」

早々に諦めて言葉通りの意味でそう返すと、背中を向けていたボルサリーノさんがもそもそと枕に顔を埋め、長ったらしい溜め息を吐いた。
何やら蚊の鳴くような声で「違うだろォ…」と言われたような気がしたが、まさかそんな、違うのか?
いちゃいちゃで幸せなピロートークじゃないというのか?この時間は。

「ボ、ボルサリーノさん…?」
「……失望したんじゃねェかって聞いてるんだよォ…アルバがわっしにどんな理想を持ってたかは知らねェが、あんな、」

みっともない。

そう言って黙り込んだボルサリーノさんにショックで硬直していた身体から力が抜け、なんだそんなことかと胸を撫で下ろす。
と、緊張感に欠けた空気を感じ取ってかおもむろに起き上がったボルサリーノさんに枕で殴られた。
ぼすん、という気の抜けた音に反して結構痛い。

「真面目な話なんだから真剣に聞きなよォ〜…!」
「真面目に聞きましたが素敵な恋人が可愛いこと言ってるだけだったので流してもいいかな、と」
「いいわけねェだろォ!」

ぐいぐいと枕をおしつけてくるボルサリーノさんはつまり、身体の関係を持ったことでおれの気が変わったんじゃないかと不安になってしまったらしい。
勿論おれはどうしてそんな考えに至ったのか全然理解できないくらいボルサリーノさんにベタ惚れなのでその心配は完全な杞憂だ。
しかしまあ、ボルサリーノさんの不安を取り除くのは恋人たるおれに与えられた使命であり、特権である。
押し付けられた枕ごとボルサリーノさんを抱き寄せごろりと転がして押し倒すと、その拍子にズレた枕の隙間から普段はサングラスで隠れている色素の薄い瞳が見えた。
何が起きたのかわからないとでも言うように見開かれたそれがあまりに幼く見えて、ふと笑みを漏らす。

「ボルサリーノさん、もう一回しましょう?次はボルサリーノさんがどんなに素晴らしい人か、おれがボルサリーノさんのどこをどんなふうに好きなのか、全部教えてさしあげますから」

邪魔な枕を押しのけて厚い唇にキスすると唐突な第二ラウンドの予告にボルサリーノさんが顔色を変えた。
怯えた表情すら素敵だなんてさすがボルサリーノさんだ。
わかってはいたが、これでは一回で語り尽くすことなど到底できそうにない。