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「#幼馴染」のBL小説を読む
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コンコン、という軽やかなノック音に続いて家主の許可を待つことなく扉を開け放った男に、目を見開いて息を詰める。
特徴的すぎる長い鼻に、愛嬌のある丸い瞳。
見慣れた顔だ。
そして、もう二度と見ることはないと思っていた顔でもあった。
「……なにしに来やがった」
「なんじゃなんじゃ、随分とご挨拶じゃのう」
「ふざけるなよ、カク。なにを、しに来た?」
強い口調で問い詰めるおれに「預けとったもんを取りに来ただけじゃろうが」とカクが呆れたように肩を竦めた。
眩暈がするほど、いつも通りだ。
カクは確かにおれが怒っているときでもお構い無しに距離を詰めてくる能天気な男で、こんなやりとりは日常茶飯事だった。
明日も明後日も変わりなく続くと疑いもしなかった『いつも通り』に思わず呼吸を忘れそうになる。
「そうじゃ、ついでにアルバの答えも聞いておこうか」
「……答え?」
「返事はいらんと言うたが、律儀なアルバのことじゃから考えとるんじゃろう?」
悪戯っぽく笑うカクに目の前がぐらりと歪んで、舌と唇は動いているはずなのに自分が何を言っているのかわからない。
カクが笑っていて、世界が回って、ガクリと落下するような感覚。

そうしておれは、いつも自分の気持ちを理解できないまま、ベッドの上で目を覚ます。



ここ数日毎日のように見る夢は、やはり悪夢に分類されるものなのだろうか。
そんなことを考えながら特有の嫌な寝汗が浮いた額を手の甲で拭って、サイドテーブルの上に無造作に置かれた大工道具を見つめる。
ガレーラで扱う様々な道具のメンテナンスを生業としているおれの元にカクがこの大工道具を持ち込んだのは、アイスバーグさんがニコ・ロビンに襲撃されたその日のことだった。
大工道具を使用外の目的で使うから頻繁に欠けだのヒビ割れだのが起こるんだと怒るおれにカクはいつも通りの調子で「わはは、すまんすまん」と謝って、基本後払いの修理代金を押し付けてきて、そして「返事はいらん」と言っておれの唇を奪って、それっきりだ。
渋るパウリーにしつこく言い募って聞き出したところ、カクはアイスバーグさんからとある情報を引き出すためにガレーラに潜入していた政府の諜報員だったらしい。
そんな馬鹿なと思ったが、同時に納得できるような気もした。
過去を思い返してみて怪しいところがあったというわけではなく、カク相手なら大事な秘密でもペロッと話しちまいそうだよなァと、そういう意味で。

カクは凄腕の諜報員だった。
けれど、それならなぜカクはあのときおれにキスなんてしたのか。
置き去りにされた大工道具を見る度におれはカクの泣き出しそうな顔を思い出し、いらないと言われたキスの返事について考える。
今はまだ夢でしかないあの日の続きが、いつか現実になる日に備えて。








ーー寝起きでぼやけた頭を軽く振ってベッドから降りたおれの耳に、コンコン、と軽やかなノックの音が届いた。