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アルバはデリカシーのない男だ。
「スモーカーは可愛いなァ」という恋人の色眼鏡でなければ絶対許されない褒め言葉のあとに「母性本能擽る男って女の子にモテるんだよなァ、羨ましい」と笑ってみたり、男二人にしては小奇麗な店での食事、つまりはデートの最中に「美味いだろう、この間クザンさんに連れてきてもらったんだ」と引っかかる発言をしてみたり、繊細さとは無縁のスモーカーですら苛立つほどに、とにかくデリカシーがない。
今だって「スモーカーが葉巻吸ってるときの唇ってすごいセクシーだよな。キスしたくなるよ」なんて言うものだから少しそわそわして身構えていたら「葉巻吸ってるときにうっかりキスしたら火傷しちまうよなァ」と笑い出す始末である。
そこは葉巻を奪ってキスするところだろうがバカヤロウ。
そう心の中でアルバを罵ったスモーカーは、次いでアルバの言葉に期待してしまった自分にもバカヤロウめと吐き捨てた。
アルバがこういうヤツだということはわかっていたのに。
大の男がこんなことで一喜一憂したりして、みっともないったらない。

「なァに拗ねてるんだスモーカー、褒めてるんだから素直に喜べよ」
「……誰が、」

誰が拗ねるか、誰が喜ぶか、そのどちらを言おうとしたのかわからなくなって口を噤む。
葉巻が当たって少し捲れた唇を指先で弄るアルバに、その気もないのに触るんじゃねェと怒鳴りたくなった。
拗ねているわけでは断じてない。
ただ、ほんの少し虫の居所が悪いだけだ。

「スモーカーの唇、やァらかい」

むにむにと下唇を摘んで遊んでいたアルバがスッと目を細めて手を離し、やはり葉巻を取ろうとはしないのかと考えてしまった自分に苛立ちが増す。
馬鹿馬鹿しい。
今更キスの一つや二つ、あろうがなかろうが差なんぞないだろうが。
そう舌打ちして背を向けるとアルバの穏やかな笑い声がスモーカーの鼓膜を揺らした。

「キスしたいならスモーカーからしてくれればいいのに、ほんと素直じゃないなァ」

そういうところもかわいい、なんて、そんなもん嬉しいわけがあるかバカヤロウ。