×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -




「イッショウさんのこと、好きです。本当に大好きなんです」

頬に手を添えて愛の言葉を紡ぐアルバの声からは深い悔恨といつも通りの思慕の念が窺えて、しかし、どうしてもそれを信じることができないイッショウは温かい手を振り払うように首をひねった。
光を失った両目を耳と覇気で補うイッショウに対し、一体なにを思ったのかアルバが性質の悪いイタズラを仕掛けたのは今朝のことだ。
普段隠すことなく駄々漏れにしているイッショウへの恋慕の情を全て削ぎ落したがらんどうな声で喋り、あるいは僅かな嫌悪すらちらつかせ、アルバに気があると噂の女海兵や以前引き抜きの話を持ちかけてきた男に好意を含んだ声を吐く。
何故と問うても惚けられ「あっしが悪いことをしたのなら謝りやす、お願いだ、もう勘弁してくだせェ」と頭を下げて懇願しても「イッショウさんは何も悪くないですよ」と感情の読み取れない声で返されてイッショウは大層混乱した。
そう、見聞色の覇気に長けた海軍大将を欺き翻弄するなど並の人間にはできるはずもないイタズラだが、何の因果かアルバはそれを成し遂げてしまったのだ。
成功した。
させてしまった。
それはもう、アルバは何があっても自分を好きでいてくれるという絶対の信頼を抱いていたイッショウの心を粉々になるまで打ち砕くほどに。
イタズラにしては長すぎる時間ののち、ようやくネタばらしをしたころにはイッショウの顔色は悪いという状態を通り越して完全に蒼白になっていた。
アルバの声を聞くのが怖い。
囁かれる愛を信じるのが怖い。
信じて、いつかまた暗闇の中、あのがらんどうな声で「イッショウさん」と呼ばれることになるかもしれないと思うと怖くて、怖くてたまらない。
アルバ、と心の中で縋るように名前を呼ぶ。
恐怖の原因はアルバにあるのに、恐ろしく思えば思うほどアルバの声を聞きたいと願ってしまう自分に吐き気がした。


***


「イッショウさん、イッショウさん……あー、まいったなァ」

声をかけるほどに身を強張らせて耳を塞ぎぶんぶんと首を振るイッショウに、アルバは大きく溜息をついた。
どれだけあからさまに気持ちを伝えても態度の変わらないイッショウがどんな反応をするか見たくて仕掛けたイタズラ。
動揺するイッショウに嗜虐心を擽られてやりすぎてしまった感はあったものの、それがまさかこんなことになるなんて思ってもみなかった。
ここまで過剰反応するということはイッショウもアルバを憎からず想ってくれているということなのだろうが、それを確かめたせいで嫌われてしまうのでは元も子もない。

「イッショウさん」

イタズラの最中とは逆にありったけの気持ちを込めて名前を呼び、耳を塞ぐ手に唇を寄せるとイッショウの口から小さな呻き声が漏れる。
声を殺して涙を流すイッショウを無理やり抱きしめて耳元で「ごめんなさい、愛してます」と囁くと、飲み込み損ねた嗚咽により大きな身体が二度三度と跳ね、白いコートの肩口にイッショウの濁った瞳から流れ出た大粒の涙が染み込んでいった。

失った信頼を取り戻すまでにどれ程の時間がかかるだろうと遠い目で考え、でもその間ずっとこんな愛らしい姿を見られるのならアリだな、という結論に至ったアルバは、イッショウのことが本当に、心の底から大好きなのだ。