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「じゃあ船長、おやすみなさい」

右腕をおれに預けたアルバが穏やかな声でそう言って、そっと額にキスしてきたらそれが一日の終わりの合図だ。
その後はただ扉から消えるアルバの背中を見送るだけ。
ほんの一瞬でも名残惜しげに振り向いてくれればまだ引き留めようもあるのだが、おれの睡眠時間を気にして早々に部屋を出ていくアルバにそれは望めないだろう。
きっかけがなければ「もう少し」と強請る勇気すらないおれが「一緒に」などと口にできるはずもなく、今日も一人で溜息をつきながら右腕とともにシーツに潜り込んだ。
自分の低い体温だけではなかなか暖まらない寝床の中で縋るように右腕を抱きしめると、それに応えてアルバの大きな手が頬を包み込む。
こんなに近く感じるのに目を開いた先にアルバはいない。
当然のことが急に虚しく感じられて、連鎖するようにひやりと竦む心臓。
慌てて胸に抱えた温もりに集中するとアルバの右腕と接している部分からじわじわと緊張が抜けていくのがわかった。
程なくして眠気の波が意識を攫う。

「アルバ」

眠りに落ちる寸前零れ落ちた声は誰にも届かない。
その、はずだった。

***

「船長」

アルバに呼ばれたような気がして少しだけ瞼を持ち上げた。
ぼんやりと霞む視界、回らない頭。
これは夢だろうか。
そうに違いない。
だってアルバがおれの、すぐそばにいる。

「眠れないんですか?」

心配そうな顔をしたアルバがおれを見てそう言った。
首を横に振る。
夢の中にいるということは今おれは眠っているということだ。
眠っているのに眠れないなんて、そんなおかしなことはない。

「じゃあ寂しかった?」

これは、そうだ。
アルバが行ってしまって一人になって、寂しい、寂しかった。
こくりと頷くとアルバは嬉しそうに微笑んで身体を引っ付けてきた。
温かい。
なんだかおれまで嬉しくなる。

幸せだ、と小さく唇の端を上げて笑ったような気がした。

***

なんかよくわからないが船長がとても可愛いことになっている。
どうしよう、どうしてくれよう、嘘だどうにもできない辛いでも幸せ。
寝ぼけておれの右腕と部屋に戻って寝ていたおれをシャンブルズしたらしい船長がふすふすと鼻を鳴らして幸せそうに眠るのを、最小限の動きで身悶えながらひたすら眺め続ける。
明日の朝が楽しみだ。
目を開けて一番に「おはようございます」と言ったら船長はどんな顔をするだろう。
船長の驚く様子を思い描き、おれは本日二度目の「おやすみなさい」を船長に告げた。