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周囲には飄々としているだの底が知れないだのと言われているが、おれにとってのボルサリーノはいつものんびりとしていて長いこと会えなかったり電伝虫が繋がらなかったりすると拗ねて不安がり、泣いて気を引こうとする少し面倒で可愛い恋人だ。
上官から直々に指示された極秘の任務でしばらく本部を離れなければならなくなったときに浮気を疑われて泣かせてしまったのも記憶に新しい。
いかに恋人といえ任務の詳細を漏らすわけにもいかず最後まで笑顔にしてやれないまま置いてきてしまったのが、今はただ心残りだった。

はあ、と息を吐こうとしては、せり上がってくる血の塊に邪魔をされる。
おれがボルサリーノを泣かせてまで秘密を厳守した計画は内部の裏切り者によって敵方に筒抜けになっていたらしい。
裏切り者のことを本部に伝えねばと閉じ込められていた牢からの逃亡を謀ったものの、結局捕まって牢に戻されボロボロになるまで蹴り、殴り、踏みつけられた。
内臓をやられたようで先程から一向に吐血が止まらない。
このままだと一日保つか、保たないか。
確信めいた死の予感に、ごめんな、と口の中でボルサリーノへの謝罪をころがしてゆっくりと瞼を閉じた。
何も教えられなかったから不安に思っているだろう。
おれがいなくて寂しがっているだろう。
全てを知ったら、また泣くのだろう。
脳裏に浮かぶ泣き顔に再度ごめんと囁く。



ーーと、突然牢の外に通じる扉が轟音と共に吹っ飛んだ。
驚きと緊張で、もう開く力もないと思っていた瞼が持ち上がる。
牢屋番の男が何かを言いかけたところでピッと光が瞬き、眉間に小さな穴を作った男は崩れるようにしてその場に倒れ伏した。

光?
まさか。

「元より浮気相手は殺すつもりだったけどもォ……こりゃあ浮気より性質が悪いねェ〜」

そんな馬鹿なと重たい頭をなんとか持ち上げた先で「もっと甚振ってやりゃあよかった」と物騒なことを言いながら倒れた男を蹴とばしている人影は間違いようもなくおれの恋人であるボルサリーノだ。
しかしなぜ、と呆気にとられているうちに鉄格子を焼き切ってこちらに近づいてきたボルサリーノは想像していた泣きっ面とは違い、いつもと変わりない穏やかな笑みを浮かべていた。
いつもと変わらない。
そのはずなのに、それがどうしてこうも恐ろしく感じるのだろう。

「ボ、ルサリーノ、なんで、」
「アルバが本部からいなくなったのと同時にわっしが怪しいと思って目を光らせてた男も見なくなったんでねェ……大将権限で調べさせてもらったよォ」

おかげで浮気じゃないのはわかったけどこいつはいただけないねェと唇を歪めるボルサリーノは、どうやらとても怒っているらしい。
裏切り者ももういねェし責任はロクな調査もしないで任務に就かせたアルバの上官にとってもらおうか。
笑いながら言っているが、もういない、とは、責任をとらせるとは、つまり、そういう。

「…………お前、怒ると怖いなァ」

泣き虫で甘えたな恋人のこれまで知らなかった一面に血を失ったのが原因ではない寒気を感じ、おれは自身の吐いた血で汚れた頬を引き攣らせて笑った。