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イッショウさんは何かあるとすぐにおれの名前を呼ぶ。
アルバアルバと気軽に名前を呼んでは「わからねェことがありやして」と話を始めるイッショウさんの『わからないこと』というのは大抵が非常に、とても非常に些細なことだ。
あれはきっと頼りにしているというよりレストランで料理を注文するとき卓上のベルをチンと鳴らす感覚なのだろう。
便利だから多用しているだけで、別に質問に答えるのはおれじゃなくたって構わない。
それならその辺にいる海兵を適当に捕まえて聞いてほしいと思うもののイッショウさんが海軍に来た当初に自ら「わからないことがあればおれに聞いてください」と言ってしまっている手前突き放すこともできず、おれは日々イッショウさんの疑問に答え続けてきた。
周囲の人間のおれに対する認識が『イッショウさんのお助け係』になっているのも仕方がないことだとはと思う。
しかし、だからといってこれは許容できない。
いくらなんでも理不尽すぎだ。

「っイッショウさん!」
「ああアルバ、そこにいやしたか。いま丁度聞きてェことが」
「丁度じゃないです、全然丁度じゃないです!おれ昼休憩中!メシ食ってたんですよ!?」

まだまったく消化しきれていない胃を抱えて走ってきたおれにイッショウさんが朗らかに話しかけてきたのをちょっと待てと遮り、首を激しく横に振る。
具がごろごろしたカレーをもりもりと食っている最中「大将がお呼びだ」と食堂から放り出された身にもなってほしい。
最後の一口が食べられなかったせいで燃費の悪い身体は未練たらしくカレーを欲していた。
肉でしめようと思ってせっかく大きめのを残していたのに、最悪である。

「へェ、そいつは失礼しやした」
「見聞色の覇気で周り探って気配がなかったら電伝虫使ってくださいってお願いしたじゃないですか…」

本当に失礼したと思っているのかいないのかは別として、ごつい指で頭を掻きながら一応の謝罪をくれたイッショウさんに度々している注意を繰り返す。
未だに電伝虫の種類を間違えるどこぞの黄色い大将とは違うのだから、ワンプッシュでおれに繋がる電伝虫くらいきちんと使いこなしていただきたい。
肩を落として切々と訴えると眉尻を下げたイッショウさんが「どうも、アルバはあっしの声の届くところにいるもんだと思い込んじまってるようで」と言い訳にもなっていない言い訳を寄越してきて、不覚にも少し可愛いと感じてしまったがここで許して甘やかしたら平穏な昼休みは永久に訪れないだろう。
とりあえず近いうちに溜まっている有給を消化して一人でどこか遠くまで旅行に出ようという算段を立てつつ、おれはイッショウさんが善良な部下の昼休みをぶっ潰してまで知りたがっていたらしい、おそらくは非常に些細な『聞きたいこと』に耳を傾けた。


ーー後日、バカンスと洒落込んだ夏島で「大将がずっと呼んでるからさっさと帰ってこい」という連絡をうけてトンボ帰りを余儀なくされたおれが思わず頭を抱えたのは言うまでもない。