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ドフラミンゴのおれに対する仕打ちは昔から実に酷かった。
原因は幼かったころのドフラミンゴに言った「まだ子供なんだから寂しいときや辛いときには甘えてもいいんだぞ」という陳腐な台詞だ。
甘やかしたがりなおれのいかにも偽善っぽい一言は生まれながらの王様であるドフラミンゴの空島より高いプライドをいたく傷つけたらしく、結果、最初に出会った五人のうちおれだけが愛称を許されず最高幹部の椅子も与えられないという逆贔屓が発生する次第となった。
以前は弟のように可愛がっていたおかげで本当の兄のように慕ってくれていたヴェルゴもドフラミンゴの命令によりおれと関わることをやめ、今では立派におれを見下す生意気な鉄面皮になり果ててしまったのだから時の流れはかくも残酷なものである。

さて、ここまで疎まれ、ファミリー内で孤立させられているのだから周囲からするとおれとドフラミンゴの関係はさぞ険悪に見えることだろう。
しかし『周囲から』という前置きで察せられる通り実際の二人の関係はそこまで悪いものではない。
というのも十数年間毎日毎日半ば洗脳のように「甘えろ」と言い続けたのがようやく実を結び始め、最近では夜な夜な部屋を訪れては黙っておれに寄りかかるのがドフラミンゴの日課になりつつあるからだ。
ヴェルゴが昔の癖でおれに対して甘えた行動をとると寄りかかってくる時間が一層長くなることや悪夢を見た後意味もなくおれを探しまわり見つからないと一日中苛々しているということを知ったときには王様を人の身に堕とした達成感に思わず目頭が熱くなってしまった。
石の上にも三年、雨垂れ石を穿つとはまさにこのことだろう。
途中で諦めなかった自分を褒めてやりたい。
思いの外ドフラミンゴが粘ったせいで「子供なんだから」と言える歳ではなくなってしまったものの、まあその程度は誤差の範囲である。
おれの甘やかしたがり精神はそんなことでは止まらない。
むしろこれまで突っぱねてくれていたぶん存分に甘やかしてやろうではないか。


「ドフラミンゴ」

今夜もまたやってきたドフラミンゴに穏やかさを心掛けながら呼びかけると、服に縋りついていた手にぎゅうっと力がこもる。
離れろとでも言われると思ったのだろうが、残念、不正解だ。
正面から抱きつくようにして肩に埋められた頭をポンポンと軽くたたき「お前はもう子供じゃないけど、甘えたいだけ甘えるといい」とおれにしかわからないであろう勝利宣言をすると、驚いたようにぴくりと肩を跳ねさせたドフラミンゴはしばらくの後フッフッフと嬉しげに笑って頬を擦り付けてきた。
一生をかけて甘やかす甲斐のある男が今、自らおれに甘えてきているのである。
全身に満ちる充実感と全能感。

「なあドフラミンゴ、どうしてほしい?」
「アルバ……名前、おれの名前、もっと、」

ドフラミンゴの柔らかいふわふわした金髪と酔ったみたいにふわふわした声がおれの耳元で甘やかに揺れる。

ーーああ、しあわせ。