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おれの記憶にあるものより随分大きな真新しい炬燵と、その上に積まれている色の濃い蜜柑。
前回家に上がり込んだ時にはなかったはずのそれは、おそらくおれが「冬といえば炬燵に蜜柑ですよね」と言ったことで急遽用意されたものなのだろう。
蜜柑はともかく相当値の張りそうな炬燵までおれのような若造の一言でぽんと買ってしまうのだから高給取りの感覚は恐ろしいというか、よくガープ中将に振り回されてるから比較的常識人に見えるけどセンゴクさんも大概ぶっ飛んでるよな、としみじみ思う。

「どうしたアルバ、入らんのか」

先んじて炬燵に潜り込んだセンゴクさんに促され二人きりにもかかわらずご丁寧に四か所に置かれた座布団の一つに腰を下ろす。
近いほうがいいと思って正面ではなく隣を選んだのだのだが、暖かさが肌に到達するより前に至極不思議そうな面持ちで「そこだと狭いだろう」と言われてしまってガクリと肩から崩れ落ちた。
この人は何を言っているのか。
向かい合って足を伸ばしても寛げるような広さの金持ち炬燵で何をとか、それ以前の問題だ。

「……恋人の近くに寄ることを狭いとは言わないんですよ、センゴクさん」
「こい……!あ、いや、そ、そうか」

途端にボッと赤くなって誤魔化すようにいそいそ蜜柑を剥きはじめるセンゴクさんを半眼で睨みながら炬燵布団を引き上げる。
前々から感じていたことだが、子か孫かという歳の差もあってセンゴクさんはどうもおれが恋人であるという認識が薄いようなのだ。
付き合う前のようにそれが原因で関係を否定されることはなくなったものの、センゴクさんのおれへの甘やかしは恋人というより完全に初孫に対するそれである。

「……その……蜜柑、美味いぞ?」
「すみませんいま逆剥けが痛いので触りたくないです」 
「そうか…」

分かりやすく拗ねてみせるとセンゴクさんが剥きかけの蜜柑を手に持ったまましょんぼりと肩を落す。
その姿がどうしようもなく可愛くて、ずるいなァと思いつつ「食べさせてもらえますか」と口を開けて甘えれば照れも躊躇いもなくゴツゴツとした男らしい指で筋まできっちり剥いた蜜柑が一房差し出されるのだからセンゴクさんはやっぱりおれを子ども扱いしているに違いない。

「アルバ?早く食べ、な、ッあ!!?」

鳥の雛に餌付けでもしているつもりなのか微笑まし気に目を細めるセンゴクさんにムッとして、摘んでいる指ごと蜜柑を口に含み、舌で潰して指についた果汁をねっとりと舐め上げる。
合わせて炬燵布団の下で内腿のあたりにゆるゆる手を這わせればセンゴクさんはさっきとは比較にならないほど顔を赤らめて硬直したまま小さく震えだした。
するりとより際どい場所に手を進め、口を開く。

「センゴクさん、もう一こ」

そんな状況でも笑顔で強請ればギクシャクと蜜柑を寄越してくれるセンゴクさんは、本当におれに甘い。