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昔、ペルが護衛隊になったばかりのころにサシで飲む機会があった。
後輩と親睦を深めるというのはただの名目で実際にはただ酒を飲みたかっただけなのだが、いま思えば多分そのときの会話がキッカケだったんだと思う。

「ペルは本当に努力家だよなァ。いつも頑張っててすごいと思うけど、無理してないかって心配になるよ」

大した向上心も王家に対するとびぬけた忠誠心もない、護衛隊においては異端な部類のおれだったからこそ出た能天気で無責任な言葉。
酔いの抜けた頭で考えれば気を悪くされても仕方がないとわかるそれに、ペルは目を丸くして「いや、私は全然、そんな」と落ち着かない様子で首を振っていた。
後から知ったことだが、ペルはどうやら「さすが」と結果を褒められることはあっても「さすが」に至るまでの過程を褒められたことはなかったらしい。
つまり「才能があるうえ悪魔の実を食べたのだから強くて当然」というわけだ。
才能は努力がなければ開花しないし守護神の能力と言われているハヤブサの姿だって元々翼のない人間であるペルが自由に空を飛びまわれるようになるまでどれ程苦労したかわからないのに、全くもってとんでもない話である。
とにかくそんなやりとりがあった翌日からペルはちらちらとおれを窺うことが多くなり、何かいいことや悪いことがあると傍に寄ってきてそれとなく――本人にとっては、それとなく話を振ってくるようになった。
おかしなことになったなァと頭を掻きつつ、しかし後輩に懐かれて悪い気はしないと構い続けていたのだが、まさか性格も実力も全く違うペルとこんなに長い付き合いになろうとは。
世の中不思議なこともあるものだ。

「ん……、アルバ?」

髪を梳いていた手が止まったことで微睡みから醒めたのか、膝の上でくつろいでいた恋人が薄らと瞼を開けて不満そうにこちらを見あげてくる。
すり、と擦り付けられた頭がどういう意味かは今更聞くまでもない。
外では絶対お目にかかれない子供っぽい表情にやれやれと肩を竦めると、おれは催促に従って痺れた足を誤魔化しながら、ゆっくり手を動かし始めたのだった。