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「この口内炎が治るまでキス禁止な」

自身の唇をめくって特大の口内炎を見せつけながらそう告げると、椅子からガタンと立ち上がると同時に盛大に転んだロシナンテがあわあわと起きあがって大きく口をぱくつかせた。
見るからに必死な表情や零したコーヒーが白い海兵服に染みこんでいくのも構わず忙しなく動かしている手からして何かしらの抗議をしているのだろうが、慌て過ぎてナギナギしてしまっているらしく何を言っているのかさっぱりわからない。
面白半分でしばらく見守ってみるも一人で百面相しているロシナンテが無音状態に気づいて能力を解除する様子はなく、むしろどんどんヒートアップして勝手に泣きだしそうになっているのだから、こいつは本当に間抜けな男だ。

「ロシナンテ、ロシー、ほら落ち着け」

わざとらしいほど甘ったるい声で愛称を呼び、男らしくすっきりとした頬を両手で挟んでむにむに捏ねると精悍な顔立ちが無残に潰れて変化する。
堪らず喉奥で笑うおれの様子に今の状況がさほど深刻ではないことをようやく理解したのか、ロシナンテは涙の溜まった目を見開いてまたぱくぱくと口を動かした。

「……なんで」

今度こそ正しく唇に伴った音はまるで拗ねた子供の駄々ようで、やっぱり笑いを堪えられなかったおれの脇腹をロシナンテの右拳が抉る。
こうなった原因はロシナンテにあるというのに酷いことをするものだ。

「一生キスするたびに歯をぶつけられたり舌噛んだりされるんじゃ堪らないから、おれに口内炎ができたらペナルティってことで」

な、と笑って唇を摘むとバツが悪そうに顔を歪めたロシナンテが、それでも納得できないと言うように指に噛み付いてきた。
おれだって我慢してるんだから、そんなふうに煽るのはよしてほしい。