「いいよ、別に。ボルサリーノがおれのことそんなに好きじゃないのなんて知ってるし……付き合って貰えてるだけで充分だから」 飲み会帰りの酒臭い状態で家に上がり込んできた挙句、散々「好きだと言え」だの「キスしろ」だの面倒な絡み方をしてきた恋人が眠りに落ちる直前ぽつりと呟いた言葉はボルサリーノにとって非常にショックなものだった。 確かに呆れるくらい直球で愛情を表現してくるアルバに対してボルサリーノは淡白な態度を取り続けていたが、しかし、例えば「好きだ」と言われて「はいはい、知ってるよォ〜」と軽く流すのは、そうすると拗ねたアルバが後ろから抱きしめてくれるとわかっているからだ。 キスだって、したくなったときは煙草を消してサングラスをはずせばアルバが自然とそれを与えてくれる。 自分から積極的になる必要がなかっただけで求めていないわけでは決してない。 それなのに『そんなに好きじゃない』なんて、誤解もいいところである。 「アルバ〜?本当に寝ちまったのかァい…?」 おろおろと視線を彷徨わせソファに転がっているアルバを指でつついてみるも、その瞼が開く気配はない。 何度か小さく声をかけ、ソファの周りを意味もなくうろついてアルバの頭側、つまり元の位置に戻ってしゃがみ込む。 すぐに起こして話し合わなければ。 そう思うのに強く行動に移せないのは、アルバを起こしたところで素直に自分の気持ちを伝えられる自信がないゆえだ。 捻くれた性格をしているという自覚があるボルサリーノにしてみれば、何億もの賞金がついた海賊の一団を相手取るより惚れた相手に好意を伝えるほうが余程難しい。 そして、だからこそ臆面なく愛を示してくれるアルバはボルサリーノにとって眩しくて仕方のない、何より大切で愛おしい存在だった。 「……アルバは知らないだろうけど、先に惚れたのはわっしの方だし、惚れ具合だって絶対わっしのが上なんだからねェ〜。お前、笑ってる顔が、心臓に悪いくらいいいんだ。特にわっしのことで笑ってる顔が、さァ」 蕩けるような笑みというのはああいうのを言うんだろう。 好いた男が自分のことを考えてそんな笑みを浮かべるというのだから、ボルサリーノはもう、それを見るたびに羞恥やら歓喜やらで死んでしまいそうになるのだ。 面と向かって伝えたら冗談抜きに愧死してしまいかねないので、こうしてアルバが眠っている今しか言えないが。 「ちょっとばかり遠まわしになるだろうが明日からはもう少し頑張って伝えるから……その、察しとくれよォ」 アルコール臭いアルバの唇にキスを落とし、火照った顔を手で仰いで立ち上がる。 幸か不幸か、そそくさとその場を離れたボルサリーノがアルバの顔が酔い以外の原因で赤くなっていることに気づくことは最後までなかった。 |