「待たんかアルバ!おどれ、自分で言うたことの落とし前もつけんうちに逃げるたァどういう了見じゃ!」 「言いたくて言ったんじゃねェしこの状況で逃げねェ奴なんていねェよバァカ!」 なにを、と唸り声をあげて演習場を焦土にしながら突き進んでくるサカズキに、再度「バァカ!」と叫んで中指を立てる。 逃げるのに必死で振り返る余裕なんてありはしないが、サカズキがどんな顔でマグマグしているかなんてわざわざ確認するまでもなかった。 ロギアはその強大さゆえ、激しい感情に能力を引きずられやすい。 つまり今まさにじりじりと肌を焼くこの熱は、そのままサカズキの怒りの証なのだ。 きっとマグマ化した顔面にはさぞ恐ろしい憤怒の表情が浮かんでいることだろう。 元はと言えばサカズキがおれの好きな奴なんぞをしつこく気にするから口を割る羽目になったというのに。 無理やり吐かせておいて知ったら怒って殺しにかかってくるなんて、本当に酷い話だ。 「アルバ!待て、止まれ!」 「誰が素直に殺されてなんかやるか!お前なんか嫌いだバァカ!」 「な、」 サカズキが動揺したように声を詰まらせた瞬間、空気すら焦がしていたマグマの熱が引いて僅かながら息がしやすくなった。 それでも上手く酸素を供給できないのはサカズキのあまりの態度をうけて心臓が潰れたように痛んでいるせいだ。 精神のダメージが体調に出るなんて我ながら泣きたくなるくらい繊細な神経をしていると思う。 まったく、女々しいったらない。 足を止めたサカズキを警戒しつつ、距離をたもったままおれも立ち止まり、振り返る。 全身からマグマをひっこめたサカズキは、意外なことに怒っているようにも泣き出しそうにも見える不思議な顔でこちらを見つめていた。 理由はわからないけれど、これはきっと今のおれと同じ顔だ。 「……なんだよ、急に黙りやがって」 「さ、っきは、わしを好いちょると言うたじゃろうが」 「ああ、そうだな」 「ッなら嫌いたァなんじゃ!」 問うと答え、肯定するとまた唐突に声を荒げるサカズキになんなんだと眉を顰めるとまるで怯みでもしたように後ずさりされ、二人の距離がじわりと広がる。 それでもギッと睨みつけて「好きか嫌いかはっきりせェ」と問いただしてくるのは、おれに好意を寄せられるのがそれほどまでに悍ましいからか。 「……好きだよ。でもお前は、おれのこと嫌いなんだろ?だから嫌いだ。大嫌いだ」 好きも嫌いも両方ただの冗談だと嘘をつくのが一番よかったのかもしれない。 しかし殺されかけたからといって一度口にしたことを曲げるのは癪で、堂々と素直な気持ちをぶつけるとサカズキが呆然としたように薄く開いた唇から「ちがう」と声を漏らした。 「違う?何が?告白した途端殺そうとしといて、何が違うんだ」 「ちが、わしは」 「違わねェだろうが。怒ってマグマになって逃げたら追ってきて、ああそういや落とし前がどうのとか言ってたな。殺したいわけじゃないなら土下座でもさせたかったか?不快な思いさせて済みませんでしたって?」 長年傍にいた野郎からの告白だ。 気持ち悪いと思うのも仕方はない。 しかし、別に優しくしろとは言わないが、いくらなんでも酷すぎるだろう。 自嘲を含めながら詰るおれにサカズキが口をはくはくと動し、尚も「違う」と首を振り、 そして。 「わしは、 ーーわしも、好いちょるけェ、制御がきかんかっただけじゃ!悪いか!!」 そう叫んだ瞬間、サカズキから噴出したマグマが空から降り注ぎ演習中の海兵たちが避難していただろう先から悲鳴があがった。 マグマが落ちた周囲は砂が焼けて火と煙が立ち上っており、端的に言って地獄絵図だ。 予想だにしない展開にあんぐりと口を開いたおれを、ふーふーと息を荒げたサカズキが仇でも見るような目で睨み据えてくる。 「言い逃げなんぞ、できると思うな……!」 なにこいつ、こわい。 |