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船に積み込める荷物というのは限りがある。
優先順位が高いのはやはり食料や武器、医療品などの命に直結するものだ。
優先順位の低い衣服などは二、三着を着回し、古くなったら捨てて上陸した島で新しいものを買うことになるのだが服装へのこだわりが強いキッドにとってショッピングは真剣勝負に他ならないらしい。

「わあ、そのコート格好いいな!よく似合ってるよキッド」
「うるせェ、荷物持ちに意見は聞いてねェんだよ」

楽しんでいる様子など欠片もないむすりとした顔で羽織っていたコートを会計に出したキッドに慌てて「ごめん」と謝るも返ってきたのは舌打ち一つ。
こういうときキラーや他のクルーならもっとうまくやるんだろうなと思うと自然と肩が落ち、背中が丸まってしまう。
自分から荷物持ちを買って出たくせに不甲斐ないが、否定的な態度をとられるとどうしてもおどおどしてまうおれではキッドを苛立たせるばかりだ。
これまでに買ったものを持って先に船に帰っていようか。
そう思ってぼんやりと見つめている先でキッドがシャツを手に取った。
おれはもう一段明るい色の方がキッドに似合うと思うんだけど、また意見して怒らせたくはないから口を噤む。
しかし無言であっても視線がうるさいのか、シャツを手にしたままこちらを振り返ったキッドの眉間にはくっきりと皺が刻まれていた。

「……なに見てやがる」
「いや、なんでも」
「見てただろうが!言いたいことがあるならはっきり言いやがれ!」
「ヒッ!あ、そ、そのシャツ!」

イライラした怒鳴り声に身を竦め思わず指をさした明るい色のシャツにキッドが視線を移す。
適当の誤魔化せばよかったと思うも、こうなっては後の祭りだ。

「シャツ、似合うだろうと思ったから、キッドに……その、プレゼントしたいなって。べ、別に意見とかじゃなくておれが勝手にそう思っただけだから、キッドの趣味とは全然別だろうし、っていうか同じデザインの服なんて二着もいらないよね!ごめんね気が回らなくて!」

あくまでプレゼントにどうかと思っただけで意見を押し付けてキッドに買わせようとしたわけでは決してないのだと言い募るおれに、キッドが微かに目を見開く。
しばらく思案するように手に持ったシャツを見つめ、棚にあるものと取り替えるとそれをおれに投げつけ、

「…………え?」
「……金はてめェが払うんだろうが」

さっさと会計して来いと手を払うキッドはさっきの剣幕が嘘のように落ち着いていた。
一体なぜ急にと頭上にいくつもの疑問符が浮かぶも、藪蛇を恐れたおれは未だにその真意を問うことができずにいる。
擦り切れて襤褸になったシャツがそれでも捨てられていないところを見るとそれなりに気に入ってくれたということなんだろうか。
そうだったら嬉しい。
嬉しいが、でも、さすがに船長の服がボロボロなのは威厳に関わるような気がするし、もし嫌がられなければ次の島でまた何かプレゼントしてみようかな。