好きな子ほどいじめたいといういじめっ子心理をこの年で拗らせてしまっているとはいえ、どろどろに甘やかして存分に可愛がりたいと思うことだって勿論ある。 しかし可愛ければ可愛いほどにからかいたくなるのも性というもので、おれは腹の上に乗っかって至極不満げな顔をしているローに「そういうところがいけないんだよ」と責任を転嫁してしまいたくてしかたなかった。 「おいアルバ、聞いてんのか」 恋人より他に対する態度のほうが優しいなんて絶対おかしいとおれのことを詰ってくるローは飼い主にかまってもらえずに拗ねている猫のようでとてもかわいらしい。 よしよしと撫でまわして鬱陶しいとひっ掻かれるまで構い倒したくなる。 けれど最後に勝つのはやっぱり「いじめたい」という欲求で、おれはそれに抗うことなくローに向けて目を細めた。 「……おれ、意地悪したくなるようなかわいい子が好みなんだけど、それでも優しくしてほしい?意地悪できなくなったら、もしかしたら気がかわっちゃうかもしれないけど」 それでもいい?と囁くように問うと一瞬ローの目が見開かれ、眉間にぐうっと皺ができる。 実際にはそこまで極端な性癖はしていないし何よりローに対していじめたいという欲求が失われることはこの先絶対にないだろうが、それはローにはわかりかねることだ。 案の定喉奥から絞り出すような声で「それは、いやだ」と拒絶を吐きだしたローにくすりと笑いが漏れた。 自分で言うのもなんだがローはおれを過分なくらいに愛してくれている。 その自信がなければこんな恋人を試すような最低な台詞、絶対に口にはできなかっただろう。 でも、同時にかわいいローが自分の意見を簡単に引っ込めるようなかわいい性格の持ち主でないこともおれは知っている。 何度かあやすようにおさまりの悪い黒髪を撫でていると、腹から腰を浮かせたローは獲物を狩る前の猛獣のように目を眇め、おれの唇にカブリと噛みついた。 「おれのことは好きでいろ。でも、優しくしろ」 いかにもローらしい命令に今度は咽るように吹き出し、腹を波打たせて笑う。 「我儘だなァ」と思ったままを口にすると「海賊なんてそんなもんだろう」と白々しい答えが返ってきた。 なるほど確かに、おれたちは海賊でローは海賊団の船長なのだから、ローが強欲なのは当然だしその命令におれが従うのもまた当然だ。 「アイアイキャプテン。でもたまにはちょっとくらいいじめてもいいかな?」 「ベッドの中でなら許す」 船長の寛大なお言葉に甘えてさっそく体勢を逆転させるが、ローの可愛さに煽られて理性とさようならしそうな現状「ちょっとくらい」じゃ済まないのは最早明白だった。 |