「アルバさん、あの、スモーカー大佐が……」 そう言い辛そうに声をかけてきた部下にああまたかと事態を察して手を差し出せばホッとしたように渡される小さく折り畳まれた数枚のベリー札。 よくこうしておれを指名した上で切れた葉巻を買いに行かせようとしてくるスモーカー大佐は、どうしても持ち場を離れられないなどの理由でそれを拒否すると丸一日いたく不機嫌になってしまうのだ。 おれが犠牲になるか否かで隊の雰囲気が決まるのだから、言伝を運んでくる奴もそりゃあ必死だろう。 まあ、金は先に渡してくれるし、釣りは面倒だから返すなと言われている。 パシリにしては相当有情な扱いだ。 余程のことがなければ断る理由はない。 とはいえ、そろそろいい加減にじれったくなってきたというのも本音ではあった。 日頃から葉巻の消費量が尋常じゃないのに一度に買いに行かせるのは二、三箱なんて効率が悪いにもほどがある。 手を付けず貯めていた釣銭もそこそこまとまった額になっているし、ここらで暫くきらさない程度の量の葉巻をプレゼントしてみようか。 何日保つかはわからないが、ローグタウン中の店から葉巻を買い占めれば少なくとも次の入荷日まで買い出しの命令はできないはずだ。 「……そうなったらきっとすごい怖い顔するんだろうなァ」 おれに会うためだけにわざわざ毎回葉巻を買ってこさせようとする恋人の渋面を想像して笑いを漏らす。 葉巻を受け取るという口実がなければ顔を合わせることもできなくなると考えて、その状況を作ったおれを「自分と会いたくないのでは」と疑って、そうして海賊も真っ青な強面の裏でひっそりと悲しむに違いない。 「面倒な人だよなァ、ほんとに」 口実などなくたって直接呼び出してくれればいい。 そうすればもっと効率的に、いまよりずっと長く一緒にいられるようになるのだから、スモーカー大佐は早いところ観念して素直に甘えるべきなのである。 |