「初めて見たけどすごいですね恐竜!でかいし強いし、すげェかわいい!」 大規模戦闘後の興奮のまま宴に臨んだおれのあり得ない失言に、隣で酒を飲んでいたドレーク船長がぴしりと固まった。 ついでにその様子を見て何かおかしなことを言っただろうかと自分の言葉を頭で反芻したおれも一呼吸ほどの間をあけたのち、固まった。 ドレーク船長の心の声を代弁するなら「何言ってんだこいつ」で、おれの心の声も代弁するまでもなく「何言ってんだこいつ」だ。 でかくて強くてかわいいって、文脈滅茶苦茶じゃねェか。 違うんです船長、格好いいって言おうとしたんです、うっかり口が滑っただけなんです。 そう弁明しようとして、いやちょっと待てと頭の中のもう一人のおれから制止がかかる。 慌てて否定したりしたら余計に怪しくないか? だってうっかり口が滑るって、常々考えてることだからなるもんだろ? いや、おれは違うんだけど、たぶん一般的にはそうだ。 もしそんなふうに誤解されたらマズい。 非常にマズい。 ここはひとつ無理やりにでも「恐竜かわいい」で押し切ってしまわねば。 「えっと、おれ昔から恐竜のぬいぐるみとか大好きだったんですよー。実際に見れてテンション上がっちゃいました!」 「……アルバは、その、少し変わっているな。かわいい、というのは……初めて言われた」 「ええ?そんなことないでしょ。おっきい口とか体に比べてちっさい手とか腹のほうの鱗の柔らかそうな感じとか、かわいいじゃないですか」 戸惑っている様子のドレーク船長に満面の笑みで恐竜のかわいいポイントを挙げながらかわいいかわいいと連呼する。 一種の自己暗示なのか、熱っぽく語っているうちに恐竜って本当にかわいいんじゃねェのと思えてきた。 俄然言葉の説得力も増す。 いいぞ、頑張れおれ、この調子で誤魔化しきるんだ! 「しっぽの太さもいい感じですよね!」 「……アルバ」 「あと瞬きするときの無防備な表情とか、」 「アルバ、わかった。わかったから、そろそろ勘弁してくれないか」 語って語って、はたと気づくとドレーク船長はヘーゼル色の瞳を酒に落としたまま時折所在なさげに視線を彷徨わせていた。 自分自身ではないとはいえ、もう一人の自分と言っても過言ではない恐竜について褒めちぎられ恥ずかしくなってしまったらしい。 俯いた顔はもちろんのこと剥き出しの胸元まで薄っすら色づいてもじもじしている姿は、なんというかとても―― 「船長、かわいい」 あ、と思う間もなく再度二人揃って硬直した。 さて、今度はどうやって誤魔化そうか。 |