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鬱陶しいと直接言われたわけではない。
しかし「すごいじゃないか」「よく頑張ったな」と声をかける度に眉を顰めて固まられるのでは、そう言われているのと同じだろう。
褒めても返ってくるのは普段のクザンとはかけ離れた重い沈黙だけ、そのうえ毎度おれが離れた後に小さな声で「くそ、」と悪態をついているということに気づいてしまったとあっては積極的にクザンを褒めようという気力が失せてしまったのも仕方のないことだと思う。
別に、クザンが悪いわけではない。
人間である以上どうしたって相性というものはあるし褒めて伸びる者がいれば褒められるのを苦手とする者もいるのだから、悪いのは押しつけがましく賛辞を口にしていたおれの方だ。
少しばかり寂しい気はするが、これからはあまりクザンを褒めすぎてしまわないよう注意しなくては。
そう考えてクザンに掛けていた言葉を飲み込むか、あるいは他の部下に回すようにしてからというもの、クザンはあらゆる面で以前にも増して華々しい成果を上げるようになった。
今までわざと手を抜いていたとは思わないが、大げさに騒ぎ立てる面倒な上官のせいで無意識にブレーキがかかっていたのかもしれない。
だとすれば今まで本当に申し訳ないことをしていたものだと苦笑してクザンの活躍を示す報告書に再度目を通す。
ここ数カ月で能力の精度がぐんと上がり、技のバリエーションも増えた。
効果の範囲が広い能力ゆえ苦手としていた周囲との連携も上手くとれるようになってきたようだ。
海賊の捕縛、討伐もスムーズに行っている。
このままいけば、クザンは次の査定で早々に昇進して、おれの隊を離れることになるかもしれない。

「……褒めてやりたいなァ」

迷惑なだけだろうとわかってはいるが隊を離れれば顔をあわせることも少なくなる。
嫌な上官だと思われても、それっきりの関係ならクザンとてそう重くは思わないだろう。
いずれくるその時には「頑張ったな」と褒めて「これからも頑張れよ」と激励して、そうして笑顔で別れたいものだ。







「すごいぞ、よく頑張ったな」

ーーまた。
自分を素通りして他の部下に賞賛を贈るアルバに、クザンは気付かれないよう下を向いてぐっと歯を噛み締めた。
アルバに褒められて嬉しそうに敬礼を返す男を押しのけて「おれのほうが」と叫びたくなる衝動を押さえるのは、これでいったい何度目だろう。
前はこうじゃなかったはずだ。
アルバが整った顔を笑み崩してわがことのように喜ぶ姿を一番多く、近くで見ていたのは、間違いなく自分だったはずなのに。
嫌われたのか。
アルバに褒められるたび感情に振り回されて能力を暴走させるような無様を晒さないよう、制御するのに必死だったせいで態度が悪かった自覚はある。
いや、けれど、しかしアルバは私情で部下への態度を変えるような男ではないはずで、だから大丈夫、違う、大丈夫だ、まだ、嫌われたわけじゃなくて、ただたまたまおれより他の奴がアルバの目にとまっただけで、おれの頑張りが足りなかったから、もっと努力すればきっとまた。
おれを見て、おれだけを見て、よくやったと、がんばったと褒めて。
次からも期待してるぞと、そう。

アルバさん。
アルバさん、ねえ、そうでしょう?




「ーークザン、話がある。後で執務室へ来てくれ」
「え……はあ、わかりました」

久々に正面から交わった視線にクザンは軽く目を見開いた。
困惑と、期待。
その瞳が次に映すのはどんな感情か、二人ともまだ知らないまま。