話すことができないからか、それとも元々そういう性質なのか。 食事と煙草を咥えなおす以外で滅多に口を開けるという行為をしないコラソンは、なぜか今日おれの前でだけ口を小さく開いたりもごもご動かしたりという謎の行動を繰り返していた。 わけがわからず何か伝えたいことがあるのかと尋ねるとルージュに彩られた唇は途端にむすりと一文字に結ばれる。 そうして不貞腐れたように背を向けたかと思うと数歩進んだところですっ転ぶコラソンに何なんだ一体と困惑に眉を寄せ、ふと「そういえば今日はコラソンが熱い飲み物を飲もうとして噴き零しているところを見ていないな」と気が付いた。 熱いものを飲まず口を開いて何か言いたげな、責めるような視線を向けてくるという点からようやく導き出されたのは、おれとコラソンを襲った先日の『事故』だ。 いつも通りドジったコラソンに油断しきっていたおれが巻きこまれ、頭突きばりの勢いで唇同士を衝突させるという互いにとって不幸な悲しい事故。 幸いおれはぶつかった歯が痛む程度で大した怪我はなかったものの、コラソンの方はそりゃあ大変だった。 「……コォラソーン」 「!」 ニヤリと頬を持ち上げて、強かに打ちつけたのであろう腰を擦っているコラソンに近づきのし掛かる。 驚きに見開かれる目を無視して躊躇いなく唇の内側に指を突っ込み唾液で濡れた粘膜をなぞると思った通りのものが指先に触れ、瞬間、コラソンの赤い瞳が涙でじわりと滲んだ。 「!……!!!」 「ふははっ、なに、コラソンお前、口内炎できちまったのか?かわいそうにすげェ流血してたもんなァ!」 床とおれの間から抜け出そうと懸命にもがくコラソンを押さえつけたまま満面の笑みを浮かべて白く腫れた箇所をぐりぐりと抉る。 結構でかいな、痛そうだな、かわいそうに。 ぐりぐりぐりぐり、ときに爪を立てて口内炎を弄んでいると、ついにコラソンの眦から涙が溢れてきた。 必死にこちらを睨みつけてはいるが息が上がって紅潮した顔といいヨダレまみれの口元といい迫力がないにもほどがある。 というか、おれに知られたらこうなることをわかっていて近寄ってきたんだろうに。 自分から望んでおいて睨むなんて、生意気だ。 「おれ、お前のそういう生意気なところ好きだなァ」 いじめたくなっちまう、と笑みを深めるともがくのをやめて大人しくしていたコラソンがおれの目を見つめたままごくりと唾を飲み込んだ。 なんともまあ、かわいいことで。 |