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最近の自分はどうかしている。
改めてそう考えながら、ペルは食事したばかりで膨らんだ胃を庇うように寝台の上に小さく体を丸めた。

最初はアルバがチャカを食事に誘っているのを見たときだった。
何故かはわからないけれど、それをどうしようもないくらいに『嫌だ』と感じて、気づいたときにはペルはアルバに駆け寄りその手を強く掴んでいた。
その時は自分の行動に混乱して慌てふためくペルをアルバが宥めてくれているうちにチャカとの食事の件も有耶無耶になって終わったものの、その日を境にペルの心と身体は箍が外れたようにおかしくなってしまったのだ。
アルバが誰かを食事に誘う。
もしくは街で買ってきた菓子などを誰かに分け与える。
そんな場面に遭遇するたびにペルはあの日と同じかもっと酷い感覚に苛まれ、なんとかしてそれを阻害しなければという考えに頭を支配されるようになった。
悉く食べ物が関連しているときに様子がおかしくなるため周囲は「最近食い意地が張ってるじゃないか」と笑ってくれているが、ペルの心中に渦巻くものを見ればそんなふうに笑える者は一人とていなくなるだろう。
なにせ憎いのだ。
ペル以外の誰かに笑顔で食べ物を与えようとするアルバが、それを受け取ろうとする人間が、憎くて憎くてたまらない。
押さえきれない情動に振り回され守るべき人々を傷つけてしまいそうになる自分が恐ろしくてアルバから離れようとすると、今度は激しい不快感に加えて由来の分からない飢えがペルを苦しめた。
いつも通りに食事をとっているのに満たされず、一日中アルバのことばかりが頭に浮かぶ。
結局心配してわざわざ部屋まで訪ねて来てくれたアルバに全てを話しアルバが驚きながらもそれを受け入れてペルだけを食事に誘ってくれるようになったことで事態は改善されたのだが、それでもペルの身心は今も変わらずおかしいままだ。
ペル一人だけに嬉々として食べ物を与えてくるアルバに、これまでの不快感が反転したような温かい気持が溢れてきて胸が高鳴るのを堪えられない。
訳知り顔のアルバに聞いたところペルの異常は『求愛給餌』というものらしいが治す方法を尋ねても不治の病だから諦めろと切り捨てられてしまった。
これと一生付き合わなければならないなんて不安でしかないというのにアルバが「おれに一生面倒見させてくれよ」と微笑むだけで何もかもどうでもよくなるほど幸せだと思ってしまうのは何故なのか。

「……本当に、どうかしている」

人に負担を背負わせ迷惑をかけて喜んでいる自分を口に出して詰り、それでも幸福に微睡むペルはアルバに与えられた餌で満たされた腹を抱え、ゆっくりと目を瞑った。