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「わっしはねェ、アルバに血なまぐさいことは似合わないと思うんだよォ〜」
「はあ」
「ほらァ〜、アルバは今まで特に身体を鍛えたこともなかったんだろォ〜?海兵は体力仕事だし、辛いんじゃないかァい?」

別に正義に興味はないし稼げるなら海兵でなくたってかまわない。
そう思っているのは事実だが、それでもこれは少し、酷いのではないだろうか。
他の人間がいる前で遠まわしに海兵を辞めろと言ってきた黄色い大将にそんなことを考えながら、もう一度「はあ」と間抜けな返事を返す。
店舗兼住宅のカフェを海賊に潰されて全財産を失い当面の食い扶持とカフェを再開する資金を稼ぐために海軍本部の見習いになって知ったことだが、小さな島の小さなカフェに大きな体を縮こめて通ってくれていたボルサリーノという名の常連客は海軍本部に三人いる大将のうちの一人だった。
どうしてそんな雲の上の人間がわざわざおれの店なんかに通っていたのか定かではないが、たぶん誰も自分のことを知らない場所で羽を伸ばしてくつろぎたかったとか、そういう理由だったんだろう。
素性を知らないおれが相手だったからこそなんでもなかった際どい愚痴と、今現在頻繁におれに接触しては言外に海軍を去るよう勧めてくる態度を鑑みればそれが正解なのだと思えた。

理由なんてどうでもよかった。
月に数度おれのコーヒーを飲みに来てくれるだけで充分で、海軍に入ったおれを探し出して訪ねてくれて、店が潰れていて心配したと、怪我がなくてよかったと言ってくれた時は本当にうれしかった。
けれど、その喜びはすぐに地に落ちた。
ボルサリーノがおれを海軍から追い払いたがっているとわかったからだ。
口外されると厄介な、例えば名前は伏せていたけれど今思い返してみれば他の大将たちのことでしかあり得ない悪口などを知っているおれはボルサリーノにとって懐に入れられない、邪魔な存在でしかなかったらしい。
もちろん言いふらしたりするつもりはないのだが、おれとボルサリーノは家族でも友人でもない、カウンターを挟んで話したことがあるだけの赤の他人である。
信用できなくて当然。
距離をとりたくて当然。
その当然が、おれは悲しくて仕方なかった。

「……向いていないのは自分でも理解していますが、今はまとまった金もありませんので」
「だから金ならわっしが……その、住むところだって見習い用の共同宿舎じゃ色々不便も、問題もあるだろうし」
「いえ、共同宿舎ではみんなに本当によくしてもらっています。それに大将殿にそこまで親切にしていただく理由もありません」

失礼しますと未だに慣れない敬礼をして踵を返し、背後から聞こえた「あ、」という小さな声を無視して歩みを進める。
別に正義に興味はないし稼げるなら海兵でなくたってかまわないが、好きな人からの手切れ金なんて、そんなものはまっぴらだ。