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「だーかーらー!ハチミツのときにも言ったけどサッチは食べ物を過信しすぎなんだよ!口内炎に塩ってお前、傷口塩揉みしてどうすんだ!どう考えても嫌がらせだろ!」
「ガキじゃねェんだからでけェ声で騒ぐな」
「ガキじゃなくても騒ぐわ!」

痛いし効き目なさそうだし絶対嫌だ、やっぱり医務室で薬をもらってくると喚くアルバを一睨みして黙らせ、サッチは塩の入った容器の蓋を開けた。
ヒッと息を飲んだアルバが「怒ってるし…やっぱ嫌がらせじゃん…」とぶつぶつ呟いているが、これは誓って嫌がらせなどではない。
嫌がらせよりもっとくだらない、言うなればただの八つ当たりだ。
色々と浮いた話の多いナースにへらへらと治療を頼むアルバに、艶やかな微笑みを浮かべながら口内炎の治療に必要だとは思えない個室の診察室へアルバを通そうとしたナースに、ただの友人でしかないサッチがする権利もない嫉妬をした。
ただそれだけの、本当に、本当にくだらない話なのである。

「……なんだよ、そんな顔されたらおれが悪いみたいだろ」

頭をがりがりと掻いて「なんかあったのかよ」と聞いてきたアルバに「別に、お前は悪くねェよ」と返し、その声のあまりの弱々しさに気恥ずかしくなって「まあ頭は悪いけどな」と付け加えると馬鹿なアルバは簡単に煽られてサッチの話題から意識を逸らしてくれた。
なにかあったのかなんて心配してくれたところで話せるはずがないのだから、これでいい。
サッチとアルバは兄弟で仲間で悪友だ。
それ以外もそれ以上も、二人の間には存在しない。

「はあ……ったく、喋ってたら余計痛くなってきた。もういいから塩でもなんでもさっさと塗ってくれ」
「おう」
「そのかわり後でキスさせてくれよ」
「おう、…………あ?」

何かおかしな言葉が聞こえたような気がして塩の容器から顔をあげるが目の前で口を開けて待っているアルバは普段と何も変わらないいつも通りのアルバだ。

「サッチ、どうした?」
「……や、なんでも」

きょとりとしたアルバの目が至近距離で瞬く居心地の悪さにもごもごと言葉を濁して塩を摘む。
今のはきっと願望が生んだ幻聴かなにかだろう。
そう自嘲してアルバを問いただすことなく流してしまったサッチにアルバが一瞬してやったりという顔で唇を歪めたことを知る者は誰もいない。
指には真っ白い塩が一つまみ。
サッチが不意打ちのキスのしょっぱさに悶えるまでのカウントダウンが始まった。