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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -




これまで勝手に判断して動き回られるよりはと思って苛立ちに目を瞑っていたものの、何をするにも一々伺いを立ててくるアルバにいい加減我慢ならなくなって「能無しの木偶野郎」と罵ったのは昨夜のこと。

「テメェは言われなきゃ何もできねェのか」

そう言いながら何もできねェんだろうなと頭の片隅で自己完結していたクロコダイルに、アルバは一夜明けた今日、朝一番に「察して動くよう努力するから間違いがあったら言ってくれ」と告げてきた。
無論クロコダイルにそんな甘さは存在しない。
間違いがあれば言うまでもなくその場で枯らすか、さもなくばバナナワニの餌だ。
それなりに長い付き合いだったがそれも今日限りかと考え鼻を鳴らしたクロコダイルの予想はしかし、少なくとも太陽の傾ききった今現在に至るまで限りなくいい方向に裏切られ続けている。
一服したいと思えば葉巻と火、喉が渇けば冷たい水、気になる情報は書類に纏めて手渡され目障りな輩もアルバの手で速やかに排除された。
いつになく順調な一日にそれでも胸の悪くなるような苛立ちが消えないのは今日のアルバの行動が昨日までとあまりに違うせいだろう。
昨日までのアルバは何か行動を起こすとき、まずクロコダイルの名前を呼んだ。
そうして二言三言言葉を交わしたあと「そのくらい自分で判断しろ」と機嫌を悪くして深く皺を刻むクロコダイルの眉間に「馬鹿でごめんな」と謝りながらキスを落とすのである。
勘違いされては困るがあまりの馬鹿馬鹿しさに放置しているだけでクロコダイルはアルバのふざけた行為を許しているわけではないし、まして望んでなど決してない。
だが一連のやりとりがクロコダイルの日常に組み込まれているのは紛れもない事実で、自分のペースを他人に崩されることはクロコダイルの最も厭うところだった。
つまりクロコダイルが抱いている昨日とは種類の違う苛立ちの原因はそれなのだ。
言うことを聞くしか能のない木偶が調子に乗って羽虫のように飛び回っているのが鬱陶しいのに、朝方アルバが言った「察して動く」という点においては小賢しくも上手くやっているものだから、クロコダイルはその行動に対して何も口出しすることができない。

「どうした、なにか問題があったか?」

イライラと葉巻を噛みしめていると何かを感じたらしいアルバが近寄って声をかけてきた。
しかしその言葉の中にもクロコダイルの名前はない。
今日一日、まだ一度も、アルバはキスどころかクロコダイルの名前を呼んですらいない。

「………………別に、なにもねェ」

たっぷりと間をあけて吐き捨てた言葉に首を傾げて「そうか」とだけ返し、アルバはクロコダイルに背を向けた。
今の態度で本当に何もないと納得するなんて、クロコダイルには理解しがたい感性の鈍さである。
結局日が暮れるまでクロコダイルに否定させる隙を与えなかったアルバは思ったとおり言われなければ何もできない察しの悪い木偶に違いなかった。
一日中何も言うことのできなかったクロコダイルが「どうだった?」と期待に満ちた目で問いかけてくるアルバを再度「木偶野郎」と罵ったのも仕方のないことだろう。