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「おいおい、こりゃあどういうことだ……?」

目の前に並ぶ好物の数々に思わずそう零すと、配膳を済ませたサンジがちらりとおれの顔を見た後「晩飯」と短く返してきた。
それはわかっている。
この時間帯の、この量のメシを見てオヤツだと思うほどおれは馬鹿じゃない。
おれが驚いたのは、その内容だ。

「サンジ、おれは確か粥を頼んだよな」
「そうだな」
「粥がどこにも見当たらないんだが」
「そうだな」
「そうだなって……口内炎にしみるから普通の料理は食えねェって言っただろ!?」

『熱と酷い口内炎が丸一週間続く』という迷惑極まりないグランドラインの奇病に侵されている現在のおれがギリギリ受け入れられる食料は薄い塩味の付いた卵粥と柔らかく茹でた野菜のみである。
肉?魚?調味料?
上下左右と舌の上に馬鹿デカい口内炎五つもこさえてる人間がそんなもん食えるか。
涙流して悶絶しながら死ぬわ。

「昨日、っていうか昼まではちゃんと粥作ってくれてただろ。なんでいきなりこんな嫌がらせすんだ?おれが何かしたか?してねェよな。一日中ずっと部屋に閉じこもってたもんな。じゃあなに?気分?八つ当たり?コックが八つ当たりで病人に食えない料理出すってどうなんだよ。しかもよりにもよって好物ばっかりとか、タチ悪すぎだろ。もう……もう、ほんと、信じらんねェ」

船内を自由に動くこともできず一人口内炎の痛みと闘っていたストレスに火がつき、回らない舌を無理やり動かして怪しい呂律でサンジを罵倒する。
それを聞いたサンジがなぜか傷ついたような顔をするものだから、自分から悪意を向けておいて被害者面かと余計に腹が立った。
どうせ用意された晩飯は食べられない。
怒って体力を使うくらいなら眠ってしまったほうが建設的だ。

「嫌がらせするくらいならおれのメシは作らなくていいから明日からはパンと水だけチョッパーに渡してくれ」

そう吐き捨てて布団に潜り込み突っ立ったままのサンジに背を向ける。
空きっ腹にしみる美味そうな匂いが恨めしい。

ーーと、


「ッお前が!うまいって言わねェからだろうが!」


突然の大声に驚いて反射的に振り向いた先には、いまにも泣きだしそうな顔で震えるサンジの姿があった。
思わず「はあ?」と困惑の声をあげる前に、切羽詰まった様子のサンジが「粥じゃ、お前が食いながら嫌そうな顔するから」と言葉を続ける。
いつも料理だけはうまいって言うのに、料理だけなのに、おれは、お前は、料理しか認めてくれないのに。
喚きながら感情が昂ぶったのか泣き出しそう、からついに正真正銘の泣きっ面になってしまったサンジの支離滅裂な言葉を熱でぼんやりしている頭でなんとか整理する。

つまり。
つまりこいつは、サンジは、たった数日おれに料理を褒めらなかったのが堪えられなくて、おれに「うまいな」と言ってもらいたいがために、わざわざおれの好きなものばかり作ったのか?
粥じゃ褒めてもらえないから?
うまい料理を食わせなきゃおれに存在意義を否定されると思って?

「サンジ、お前、……………アホか」

思わず漏れた溜息を聞いてビクリと肩を跳ねあげたサンジに再度わざとらしく溜息をつく。
言葉の足りなかったおれも悪いがそれにしたってサンジはアホだ。
料理しか認めてないなんて、そんなことあるわけがないだろうに。

「お前が作ったもんじゃなきゃ、あんな味もクソもないペースト状の米なんか誰が食うかってんだ」

ああ、こんなときに上手く動かない舌がもどかしくてしかたない。
どうせこんな遠まわしな言い方じゃ、このアホには百分の一も伝わらないんだろう。
おれの気持ちは口内炎が治ってからみっちり教えてやるとして、いまはおれのために作られた大量の好物たちをどうやって完食するか考えなければ。
理由はどうあれ、おれへの好意が詰まっている料理を他の誰かにくれてやる気はないのだから。