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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -




最近おれの執務室に妖精さんがあらわれるようになった。
そう、部屋の主が眠っている間に仕事を手伝ってくれるという、あの子供の寝物語で有名な妖精さんである。
おれが執務室のソファで仮眠をとっていると気づかないうちに入ってきて毛布をかぶせてくれたり書類を整頓していってくれるんだと話すと大抵の相手は呆れた顔で「馬鹿言ってないで働け」という正論とともに書類の束を寄越してくるか、さもなくば至極真面目におれの頭を心配してくる。
冗談の通じない奴らだ。
おれだって本気で妖精の存在を信じてるわけじゃないが、あいつらはもう少しユーモアというものを身につけたほうがいい。

「……でェ〜?それをわっしに聞かせる意図はなんだァい?」
「別に意図なんて大層なものはありませんよ。ただ、ここのところやけにおれの周りをウロウロしてらっしゃる大将殿なら妖精についても何かご存じじゃないかと思いまして」
「自意識過剰だねェ、わっしが知るわけないだろォ〜」

おれのわざとらしい丁寧な言葉遣いに対し不愉快そうに眉を顰めて鼻を鳴らすボルサリーノから今日中にまとめなければならない資料をいくつか受け取り、肩をすくめて傍を離れる。
恋人に優しさや甘さなどの『特別』を求めるおれと恋人になってもひたすらドライなままだったボルサリーノは先日性格の不一致なんて可愛い表現じゃすまないような売り言葉に買い言葉の罵りあいの末、盛大に破局したばかりだ。
しばらくは仕事ですら顔も合わせず、言葉も交わさず、しかしその数日後から突然現れるようになった光る妖精さんの正体なんて誤魔化しようがないほど明白なのに意地っ張りなボルサリーノはしらばっくれるばかりで頑として認めようとしない。
ボルサリーノにとってはこれが精いっぱいの謝罪なのかもしれないが、おれにだって相応のプライドはある。
女々しいだの気色悪いだのと散々貶められた挙句の別れだったというのに、表面だけでもこちらから折れることなどしたくはなかった。

「……妖精さんには悪いが、ここはひとつ罠でも仕掛けるか」

そう呟いてボルサリーノに渡された資料の裏に走り書きをして、それをテーブルに置いたままソファに寝転がる。


『優しいあなたに恋をしました。もしあなたが本当にボルサリーノじゃないのなら、おれとお付き合いしていただけないでしょうか?』


そんな走り書きを読んで大切な資料をビリビリに破き散らした妖精さんに泣きながら光の速さで殴りかかられ、海桜石を用意しとくんだったと目論見の甘さを悔やむことになるのは一時間後の話。
なんとか数カ所に抑えたものの全身の骨折により入院を余儀なくされたおれの隣にボルサリーノが寄り添うようになったのは、翌日からずっと、未来まで続くながーい話。