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「サカズキー、ちゃんと休憩して……ないな。わかってたけど」

他の大将が適度に――青キジのあれを適度と言っていいかは微妙だが、とにかくそれぞれ自己判断できちんと休憩を挟むのに対しサカズキは一度席に着くとぶっ通しで仕事に没頭する癖がある。
それが遠征や政府、七武海との会議を前にすればどうなるかなど考えるまでもなかった。
一応無理しすぎると倒れるぞ、と声をかけてはみるもののそれで素直に休憩するなら初めから心配などしていない。
案の定不機嫌そうな顔で手を動かしたまま「明日から暫く本部を離れにゃァならん。休んどる暇はない」とおれの言葉を切って捨てたサカズキに溜息をつきながら歩み寄る。
おれに視線すら寄越さず書類にサインを終え、次の書類に手を伸ばしたサカズキの目の前にずいと差し出したのは、

「……なんじゃァ、リンゴ?」
「おう、おれ特製のウサちゃんリンゴだ。可愛いだろう」

どうせ昼飯も適当に済ませたに違いないと先程食堂にあったのを剥いてきたのだ。
公私混同を避けるため仕事中に『特別』を持ち込むことは滅多にないのだが、たまにはこういうのもいいだろう。
途中で調子に乗ったせいで予定より随分な大群になってしまったウサギを一匹自分の口に放り込む。
うん、甘酸っぱくて美味い。

「ほら、サカズキも」
「そんな暇はないと言うたはずじゃ」

リンゴの乗った皿を手で払って仕事を続けるサカズキに「じゃあサカズキはそのまま仕事してていいから」と言うと訝しげな瞳がちらりとおれの姿を映した。
どういうつもりかとサカズキが問おうとしたその瞬間、小さく開いた唇に赤い皮で作られたウサギの頭を押し付ける。

「おれが食わせてやるよ。サカズキはそのまま仕事してな」

サカズキは突然のことに一度口をむぐつかせたが、笑顔のおれを見て少し悔しそうに顔を顰めたあと黙って咀嚼をはじめた。
餌付けでもしているような微笑ましい気分でサカズキを見つめ、シャリシャリという音がなくなり嚥下するのを見計らって次のリンゴを口元に運ぶ。
ウサギの頭とぶつかるサカズキの、見た目からは想像しづらい柔らかな唇。
時折当たる唇や歯の感触に「本当ならウサギじゃなくておれがキスしたいくらいなんだが」と呟くとサカズキが左手で海軍帽のつばを引き下げた。

「……サカズキ、リンゴより赤くなってるぜ?」

うるさい、と小さく唸るサカズキにニヤニヤしながらリンゴを齧り、同じ味で満ちているはずのサカズキの唇を想う。
執務室には紙とペンが擦れる音、そして瑞々しいリンゴの咀嚼音だけが響いていた。