「サボ、あの、最近なんか機嫌悪い、よな?おれ、お前に怒らせるようなことしたかなァ……なんて、」 緊張を誤魔化すように笑みを浮かべながらしどろもどろそう言うとサボが平素まん丸な目を鋭くしておれのことを睨みつけてきた。 ああ、やっぱりおれだ。 サボの機嫌の悪さの原因はおれなんだ。 他の誰かに対する怒りのとばっちりかもしれないという希望が粉々に砕け散った。 サボはおれが、小心者で話し下手でぼっち標準装備なおれが初めて心を預けることができた大切な大切な相手なのに。 そんな大切な相手を気づかない間に不快にさせてへらへら話しかけるなんて、おれは最低だ。 死にたい、いや、死のう。 許してもらうにはもう誠意をもって死んで詫びるしかーー 「なんでそうなるんだよ……!」 「あ、あ、頭掴むのはやめっ、いた、痛い!割れる!頭蓋骨が割れるぅっ!」 「お前が!死ぬとか!物騒なこと言うからだろう!反省しろ馬鹿!!」 いきなり頭を鷲掴みにされて何事かと思ったらどうやら考えていたことが一部口に出ていたらしい。 独り言が多いのは長年のぼっち生活の弊害だ。 ミシミシと嫌な音を立てる頭蓋骨にひぃひぃ言いながら謝罪を繰り返す。 と、ようやく頭を開放してくれたサボがおれの胸のあたりにある綺麗な金色の髪をがりがり掻いて溜息をつき、バツの悪そうな顔で「コアラに」と呟いた。 「へ?なに、コアラちゃん?」 「……アルバ、コアラに懐いてるだろ、最近。目があっても逸らさねェし、初めて会った時から名前で呼んでるし」 おれのときは半年以上も目があっただけで逃げてたくせに、名前だって無理言ってやっと呼ぶようになったくせに。 恨みがましそうな視線をうけ当時のことを思い出したおれはサボの言葉と自分の記憶の噛み合わなさに思わず首を傾げた。 今でこそおれと友好的に接してくれているサボだが初対面のときはそうではなかったはずだ。 「……あれは、確かサボが初っ端メシ食いながらスプーンとフォーク素手で丸めて『人間の骨くらい素手で簡単に砕けるんだ』とか言うから、馴れ馴れしくしたら殺されると思って」 「緊張してるから和ませようとしただけだ!」 「えっ……そ、そうだったのか……おれには副音声で『次はお前がこうなる番だ』って聞こえてたよ」 てっきり年下の先輩から新人イビリを受けていると思っていたのだが、どうやらそうではなかったらしい。 自分の行動が不本意な受け取られ方をされていたことに腹をたてたのかサボがガシガシと向う脛を蹴りつけてくる。 力はそれほど入っていないが地味に痛い。 「えっと、で、でも、コアラちゃんと仲良くできてるのはサボのおかげだから!」 「……おれの?」 「そうそう、おれ、コアラちゃんのことも最初は並みの魚人よりずっと強いって聞いて怖いと思ってたんだけど、他でもないサボがコアラちゃんのこと信頼してるなら大丈夫かなって。じゃなきゃこんなに早くいッ、た!?」 ご機嫌とり兼本音を告げる途中、一際強く蹴り上げられた脛を押さえてぴょんぴょん片足で跳びはねる。 そんな無様な姿を見てもサボはもう何も言わなかったが、無表情ながらに瞳はキラキラと輝いていたので機嫌は直ったのだろう。 サボの琴線はよくわからないけど、とりあえず、嫌われなくてよかった。 |