×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -




「よォ、わんちゃん。今日もここにいたのか」

そう言って常に浮かべている腹の立つニヤけ面とは違いどこか柔らかい、しかしやはりニヤけ面としか形容できない笑みを浮かべたアルバ。
植木をかき分けて近づいてくるアルバの姿を見て、白黒の毛並みをした大きな犬ーーではなくゾオン系の能力じゃであるジャブラが獣型をとることで変身した狼は、まるで歓迎するかのように尻尾を振り、わふんと鳴き声をあげた。
『わんちゃん』の正体を理解してこの光景を見た第三者がいたとすれば目を剥いて固まるか腹を抱えて笑い転げたことだろう。
なにしろジャブラはCP9の中でも気性が荒く、強さに比例して矜持高い男だ。
任務のためとあらば少しの葛藤もなくそれらを置き去りに行動できるリアリストな面もあるが日常生活で意味もなく他者にへりくだることなどありえない。
そんなジャブラが心の内で「わんちゃん」呼ばわりされたことへの罵詈雑言を吐きながら、それをおくびにも出さず尻尾を振るのには理由があった。
ジャブラを煽り、からかい、貶めることを生きがいとしているようなふざけた男の弱みを握って仕返しするためという、この上なく重要でこの上なく子供っぽい理由が。

初めてアルバとこの姿で対峙したのはジャブラが想い人であるギャザリンの落とし物を探して匂いを探っている最中のことだった。
そのとき一番鼻の利く姿とはいえ完全な狼の姿で地面の匂いを嗅いでいるところを見られさぞ馬鹿にされるだろうと身構えたジャブラに、アルバはきょとりとした顔で「あれ、番犬部隊の子かい?」と的外れなセリフを吐いたかと思うと何の気負いもなくこちらへ手を伸ばしてきたのだ。
考えてみれば確かに、任務の際に人獣型をとったことは多々あるものの完全な狼になった姿をアルバに見せたことは一度もない。
人獣型と違って普通の大型犬より一回り大きい程度の見た目からすればジャブラだとわからないのも無理はないだろう。
そうして現状を整理し思案する様子を見て人に慣れた大人しい犬だと判断したのか、首周りの毛を肉ごと鷲掴んだり横っ腹に顔を埋めてぐりぐりしたりと好き放題に狼の身体を堪能したアルバはやがてジャブラに語り掛けるように独り言を漏らし始めた。
曰く、好きな子にもこのくらい素直に触れられれば、と。
初耳だった。
ジャブラの恋心を馬鹿にしてくるアルバはきっと恋をしたことがないのだと思っていたから、人間のときより数段優れているはずの自分の耳が信じられなかった。
好きな子。
アルバに、惚れている相手がいる。
頭の中で何の含みもないシンプルな言葉の意味を何度も咀嚼し反芻したジャブラは、ぎゅうと縮み上がった心臓と吐き気がするほどの胸の悪さをアルバへの嫌悪のせいにして、誓った。
そんなもの認めてたまるか。
散々馬鹿にしておいて自分だけ上手くやろうなんて、そんなのは絶対、絶対に、許さない。

それからというもの、もやもやした感情を振り切るようにして「この姿で好きな子とやらを聞き出して二人の仲を引き裂いてやる」とアルバに接触し続けているジャブラは気づかない。
アルバが『わんちゃん』相手に恋を語り続ける理由に。
額から鼻筋、鼻先を過ぎ、今では口の端に落とされるようになった唇の理由に。

「脈はあると思うんだけどなァ。おれは素直じゃねェし、あいつは鈍感だしなァ」

そう言って肩を竦め、残念そうに「わんちゃん」の顔の傷を撫でる理由に。

素直でないアルバのアピールに、鈍感なジャブラは、まだ気づかない。