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時間に縛られるのを嫌い、何度言っても時計を持とうとしないアルバの目付け役としてグラディウスを指名したドフラミンゴは二人のことを『相性が最悪でありながらそのデコボコが歯車のように噛み合って不思議と上手くやっている』と評していたが現実はそうではない。
グラディウスとアルバの関係は、とても歪で一方的だ。
グラディウスはアルバを好いていた。
初めはファミリーでなければ殺しているところだというくらい嫌いだったのがいつの間にか些細なことで激昂する神経質なグラディウスを前にしても動じることなく微笑み続ける能天気なアルバの傍が心地よくなっていて、そこで終わればよかったのに、あろうことか近づいて声を聞いて肌に触れて触れられたいという馬鹿げた欲を持つようにまでなってしまった。
出会った当初からの嫌悪感を丸出しにした刺々しい態度を今更どう変えればいいのかもわからず、折角アルバが話しかけてくれることがあってもプライドと羞恥心が邪魔をして無視か喧嘩腰という最悪な二択になってしまう。
そんなグラディウスにとって、ドフラミンゴに与えられた『アルバに時間を守らせる』という役割だけが欲望を満たす術だった。
嫌っているはずのアルバに関わるのはドフラミンゴの命令ゆえで、暴力的な言動は時間にルーズなアルバに非があるのだから仕方がない。
そんなふうに人に責任を押し付けて自分の振る舞いを改めなかったツケが回ってきたのだ。

時計ばかりを扱ったアンティークショップ。
そこから出てきたアルバが腕に下げている紙袋に何が入っているかなど、そんなもの、尋ねるまでもない。
当然だろう。
時間に縛られるのが嫌いだといったって、何かあるたびに罵声を浴びせられ乱暴に引きずっていかれるのと素直に時計を持つのなら誰だって後者を選ぶに決まっている。
アルバが時間を守るようになれば時計代わりのグラディウスはもう用無しだ。
つまりは時計を持ちたがらないアルバに時計を買わせるほどグラディウスが嫌われたという、自業自得な、それだけの話だった。

「あー、あー…まいったなァ。誤解だよグラディウス、そんな顔しないでくれ」

グラディウスと鉢合わせたことが予想外で驚いていたのだろう。
アンティークショップの扉から出てきた状態のまま固まっていたアルバがグラディウスとグラディウスの視線の先にある紙袋を何度か見比べ、何かを納得したように苦笑する。
「そんな顔」とは言うが、自分が今いったいどんな顔をしているというのかグラディウスにはまったく見当がつかなかった。
グラディウスは怒り以外の感情はあまり持ち合わせていないし、表情だって豊かなほうではない。
そもそもマスクとゴーグルで半分以上が隠れているのだから顔なんて判断しようがないだろうに。
グラディウスが現実から目をそむけるようにぼんやりと意味のない思考を続けると笑みを深めたアルバが「お前は自分で思ってるよりずっとわかりやすいんだよ」と言って近づいてきた。
随分と自信ありげな様子だが、わかりやすいというのならグラディウスの好意だって疾うに察しているはずではないか。
すべてをわかっていてあえて時計を買ったのだとすれば、それはグラディウスを根本から拒絶する行為でしかない。
酷い男だ。
アルバは、ひどい。

「ああ、その顔はいいかも。拗ねてるみたいでかわいい」

酷い男らしく悪戯っぽい声で心を弄ぶようなセリフをさらりと吐いたアルバが、どう反応していいかわからず硬直するグラディウスの手を取って紙袋から取り出した物を掌に乗せた。
想像と違わない、アンティークらしい鈍い色をした懐中時計が呆然としているグラディウスの手の中でカチカチと時を刻む。

「好きな子に迷惑かけ続けるのもどうかと思ったんだけど」
「…………は?」
「グラディウスがおれの面倒見て幸せそうにしてるの見るとおれも嬉しいし」
「待て、なにをーー」

時計ともども末永くよろしくお願いします。
混乱するグラディウスを他所に、アルバがやけに礼儀正しく頭を下げた。
落ちてきた前髪の隙間からこちらを窺い見るアルバの甘い瞳に、グラディウスが言葉の意味を正しく理解した瞬間。
命令でも強制でもなくアルバ本人の意思によりグラディウスのものになった懐中時計にパンクの危機が訪れたのは言うまでもない。