「ペンギンがね、ベポが心配してるって言うんですよ。おれと付き合い始めてから船長の隈が濃くなってるって」 無理させるなって怒られちゃいました、とおどけるように笑ってみせると船長の顔がわかりやすく歪んだ。 そりゃあそうだろう。 おれはこうして船長に呼び出されるたびに、無理させるどころか「お前が隣に入ってくるまで絶対寝ない」と駄々をこねる船長をベッドの外から宥めて寝かしつけてるだけなんだから。 無理をしてでもおれをベッドにあげたい船長からすればペンギンの指摘は実に腹立たしい話に違いない。 「船長、今日こそは早く寝てください」 「……いやだ」 「眠いんでしょう?」 「うるせェ、ばか」 昨日も一昨日も遅くまで粘っていたが今日は襲撃を受けたおかげで昼寝をしていないし、ついでに寝酒にも少しばかり度数の高い酒を飲ませたから眠くないというのは嘘だろう。 しばらくすると案の定落ちてくる瞼を必死に押しとどめていた船長が「くそったれ」だの「ばかやろう」だのと少ない語彙でおれを罵り始めた。 こうなればもう船長が眠りに落ちるまでは秒読みである。 「……アルバ、」 瞼がくっつく瞬間を待って余計な手出しはせずひたすらじっとしていると船長の腕が悪足掻きのようにおれに向かって伸びてきた。 のろのろとしたそれを避けることなく受け入れると、ホッとして気が緩んだのか、悔しそうに身体の力を抜いた船長の頭がゆっくりと枕に沈んでいく。 恨めしげに寄せられていた眉はあどけなく開き、船長、と声をかけても返ってくるのは子供じみた拙い罵声ではなく規則正しい寝息だけ。 「……うん、ちゃんと眠りましたね」 船長の安らかな寝顔に「よかった」と安堵の息を吐いて乱れたケットをかけなおす。 このまま朝までぐっすり眠れば、ベポが心配するくっきりとした隈も少しは薄くなるはずだ。 これまで一人で気を張って生きていた反動か、船長はいつの間にやら恋人であるおれという存在に依存し、つい一月ほど前には抱きしめられていなければ眠れないという状態にまで不眠症を悪化させていた。 おれに縋って甘えてくる船長は正直言ってとても可愛らしい。 恋人として期待に応えたい気持ちだって当然ある。 一緒にであれば眠れるのだから、船長の望みどおりに抱きしめて寝てやればみんなに心配をかけることもないんだろう。 だがしかし、船長を大切に思うなら求められるままに甘やかして依存を深めるのは絶対にしてはいけないことだ。 おれがいなくてもきちんと身体を休められるよう、協力して、少しずつでも不眠症を改善しなければ。 ーーそう、これは船長のことを思えばこそのトレーニングなのである。 別に、眠気と不安の狭間でぐずる船長が見たくてわざと意地悪をしているわけでは、断じてない。 |