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遠い過去に断腸の思いで捨て去った宝物がある日浜辺に落ちていた。
どうしよう、と自分一人のためだけにある簡素なベッドの上で窮屈そうに眠る男を見つめながら情けなく眉をさげる。
腹に一つ大きな傷を負い、出血と衰弱で意識を失っていた漂着者の青白い顔を見た瞬間おれは思わず息を飲んだ。
ドンキホーテ・ドフラミンゴ。
かつて幹部として所属していた海賊団のトップにして最愛の恋人、だった男。
おそらくは海賊か海軍との交戦中に嵐にでも巻き込まれて海に投げ出されたのだろう。
普通泳ぎの上手い者であっても荒れた海に落ちれば死を覚悟するものだ。
それを悪魔の実の能力者であるドフラミンゴが板切れ一枚にしがみついて生き延びたうえ、おれが隠れ住む無人島に流れ着いたというのだから運命とは恐ろしい。
これからどうしたものかと途方に暮れているとドフラミンゴの瞼がピクリと動き覚醒を予感したおれは咄嗟に手で目隠しをした。
手のひらに長い睫毛が擦れてくすぐったいが色んな事を先延ばしにするためにはこれしかない。

「……ぁ、なに……なんだ……?」

目を開けても光が見えないことに混乱しているドフラミンゴの口にそっとコップを当てて水を含ませる。
渇きを癒すためコクコクと素直に喉が動き、しばらくするとぼんやりした声で再度「なんだ」と言葉を発した。
それは先程と違って答えを見つけて安堵したような腑に落ちたとでもいうようなニュアンスで、反対に眉を寄せるおれに向けドフラミンゴはフッフッフと楽しげに笑った。

「なァ、アルバ。お前アルバだろう」

確信を得た強い声色にドキリと心臓が跳ねる。
そんなまさか、こんな、たった数秒で?
どうしてバレたのかと慌てるおれにドフラミンゴは尚も笑みを深くした。

「アルバ、アルバ……フフッ、お前がおれの前から消えてからもう何年経った?毎日毎日思い返すのにどんどん忘れちまってなァ。最近じゃ声も、どんな顔して笑ってたかも思い出せなくて」

せっかく夢でお前に会えたのにやっぱり顔と声は駄目なんだなと笑いながら、でも匂いと手の感触は鮮明に憶えてるんだと誇らしげにおれの手に触れるドフラミンゴ。
アルバアルバとうわごとを繰り返すうちに目を覆う手のひらが温かい何かで濡れて、じゅくり、と心臓が腐ったような音を立てた。
おれは酷い人間だ。
ドフラミンゴが、ドフィのことが好きで、好きで好きで堪らなくて恋人という肩書では満足できなくておれ以外に笑顔を向けることが許せなくて、殺してやりたいと、殺そうと思った。
そんな自分が恐ろしくなってドフィのもとから逃げ出した。
何より酷いのはそんな自分をドフィに一切明かさなかったことだ。
嫌われたくなかった。
できることならいい思い出として心の片隅にでも置いてほしくて、結果ドフィを傷つけた。

「…………ドフィ」

ぽつりと漏れた声にドフィのひび割れた唇が吊り上がる。
たった三音に歓喜するドフィに対しおれはこれ以上何を言えばいいのだろう。
ごめんと謝るのか、愛していると告げるのか。

まだしばらく、目隠しははずせそうになかった。