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仕事に打ち込みいくつかの海賊団を壊滅させ空いた時間全てを鍛錬に費やして、それでもなお胸の悪くなるような苛立ちが消えない。
原因はわかっている。
アルバだ。
鬱陶しいくらい構ってきては息抜きと称して食事や酒に誘ってくるあの男が、ここのところめっきり声をかけてこなくなった。
避けられているというわけではなく仕事外での過ぎた接触がなくなっただけ。
たったそれだけのことが酷く不快で、また何よりそう感じる自分が腹立たしく、サカズキは八つ当たりのように仕事をこなしていた。
こうしていればきっとアルバが心配して声をかけてくるに違いないなど、この期に及んで馬鹿げた考えが頭を過る。
全くもってどうかしているとしか思えない。

「サカズキ」

苛々としながら本部の廊下を歩いていると後ろから聞きなれた声が自分の名を呼んだ。
待ち望んでいたと言わんばかりに反応する身体を押しとどめ、ほんの少しだけ振り向いてぶっきらぼうに返事をするとアルバはサカズキから三歩ほど離れたところで立ち止まった。
遠い。
馴れ馴れしく肩を叩いてやたらと近い距離で話すのが常であったくせに、この距離はなんだ。
何故今更離れていくような真似をする。
「そんな怖い顔するなよ」と気づかないうちに歪んでいた表情を指摘されより一層眉間の皺を深めると、こちらの意を汲んだつもりか一歩だけこちらへ足を進めてきたアルバが苦笑しながら口を開いた。

「おれが調子に乗り過ぎたせいで変な噂が立っちまって、悪かったと思ってる」
「……噂?」
「ん、知らないのか?だから怒ってたんじゃ……あー、まァ、知らないならそのほうがいい。あまりいい気分にはならん類の噂だ」

突然の謝罪を受けてサカズキが訝しげに目を眇めるとアルバは困惑したように首を傾げた。
暫くして気にするなと手を振られたが、そういうわけにはいかない。
アルバの態度が変わったのが噂のせいだとすれば、自分が今抱えている苛立ちの元凶はその噂ということになる。
一体どんな内容なのかと尋ねると、ここで口を割らずともサカズキがそのつもりなら遅かれ早かれ耳に入ると判断したらしいアルバは長い溜息を吐いて言い辛そうに話し出した。

「サカズキは元々、あまり人と行動するのが好きじゃなかっただろう?それをおれが無理やり連れ回してたせいでサカズキはアルバの犬だ、なんて陰口をたたく奴がいたらしくてな」

予想より数段くだらない内容に一瞬思考が停止しかける。
犬。
自分が、アルバの犬。
面と向かって吠えることもできない負け犬どもが戯言をと思いながら、しかしアルバが申し訳なさそうに頭を下げるのを見た瞬間、なぜか考える間もなく言葉がついて出た。

「別に、あんたなら構わん」
「は、」
「……勘違いせんでください。あんたに悪気がないんはわかっちょるけェ、わしも気にせんと言うとるんです」

呆気にとられたように瞠目して間抜け面を晒すアルバを見て己の失言に気づき慌てて訂正を加える。
噂を肯定するつもりなどない。
ただ少し言葉選びを間違えただけだ。
サカズキの説明を聞いてそれに納得したのか、小さく頷いたアルバが一向に近づいてこないことに焦れ自分から一歩前に進み出る。
アルバが幾度か目を瞬かせた後いつものように柔らかく微笑んだのを見てサカズキは海軍帽のつばを下げた。

「サカズキ、もうメシは食ったか?」
「……いいえ」
「なら一緒に行くか。仕事は勿論だが、たまには気を抜くのも大切だからな」

何やら微笑ましいものを見るように目を細めて頭を撫でようとするアルバの手を叩き落とし、二人揃って歩きはじめる。
胸に巣食っていた苛立ちがものの見事に消え失せているのに気づいてわざとらしく顔を歪めてみても、持ち直したサカズキの機嫌が再度傾くことは終ぞなかった。