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▼『今年の春は寒い』のクザンはあの後怒られなかったか


「お前のせいで怒られたんだけど」

むすっとしながら歩いてきたかと思うとおれの前でピタリと立ち止まり、仁王立ちでそう言い放った大将青キジに「はあ」と間抜けな相槌を返す。
大将がサボり場所にしていたあの大樹が氷漬けになっていると騒ぎになったのはあの日、あのあとすぐのことだ。
どうやらセンゴク元帥にこっぴどく叱られたらしい大将が解放されてすぐここへ来たことを鑑みれば大樹が氷漬けになった理由はおのずと知れた。
が、しかしだからといって素直に謝れるはずなどない。
謝るということは認めるということだ。
想いを拒絶されるのは当然として、最悪、部下でいることすらできなくなるかもしれない。
伝えるつもりのなかった想いによるたった一度の過ちで近くにいる権利すら失うなど耐えがたいことである。
大将には申し訳ないが、ここはなんとしてでもシラを切り通さなければ。
そう心に決めて「私が何か?」と白々しく問うと大将は一瞬怯んだように唇を噤んだ後「おれが寝てるときにイタズラしたでしょうや」とこちらを睨みつけてきた。
違う。
あれはイタズラで済む問題ではない。
あなただってそう思っているから、だからこうしてわざわざおれを訪ねて来てまで糾弾しているんでしょう、クザンさん。

「……記憶にありませんね。失礼ですが、青キジ殿は眠るときいつもアイマスクをつけてらっしゃるはずだ。それなのになぜ『イタズラ』をしたのが私だと?」
「なんでってそりゃあ、だって、」

だって、その、と口を濁らせる大将に「夢でも見てらしたのでは」と畳みかけると怒りに鋭くなっていた目が見開かれ、なぜか一瞬悲し気な、傷ついたとでもいうような光がその瞳をよぎった。
ぞくりと心臓が震え、けれどそれに惑わされてはいけないと背筋を正す。

全ては夢。
寒い春が見せた幻なのだ。


***


怒られました(*'ω'*)